日本SF界では貴重な、ハードSFの水準を維持し続けている作家・機本伸司の作品である。今回は「神」を創るお話なのだ。

平凡な大学生の井沢直美は、大学祭で偶然スーパーコンピューターの開発者と出会い、アルバイトを始める。ところがそのアルバイトの内容は、最先端の量子コンピューターを使って、占い事業を展開するというものだった。

小松左京賞を受賞した「神様のパズル」でデビューし、「メシアの処方箋」、「僕たちの終末と傑作SFを連発してきた機本伸司だが、最近は不調気味。しかしこの「神様のパラドックス」は、久しぶりに起死回生の一発なのだ。

「神様のパズル」と似たタイトルだったため、新作だとはしばらく気がつかなかったのだが、内容が「神様のパズル」の延長線上にあるので、このようなタイトルになったようだ。これは最後の最後になって、あの「瑞穂沙羅華」が友情出演するので、やっと気がつく仕掛けだ。ま~ここらはお遊びの部分なので、実際の内容には直接関係ないのだが・・・。

「神様のパズル」では、天才美少女の瑞穂沙羅華が、巨大加速器を駆使して「宇宙シミュレーター」を創るお話だった。今回の「神様のパラドックス」では、量子コンピューターを使用し、宇宙創造からさらに推し進めて、各個人の人生シミュレーターまで創り、占いをしようというのだ。実に気宇壮大で、トンデモ発想だ。このアイデアだけで感服してしまった。

しかし「宇宙シミュレーター」なんぞは、アイデアだけかと思っていたら、既に存在していたことに、新書「宇宙は何でできているのか」
http://smcb.jp/_ps01?post_id=2693198&oid=27605..
を読んで知り、ビックリしたのだが、さすが機本伸司は一歩先を行ってる。それにしても、VRで生物を進化させるのは良いとして、各個人の人生まで予測し、占いで商売をするという非常識な発想が凄い。そこまで予測できるなら、世界経済シミュレーターをつくるなど、もっと役に立つものあんだろ、とツッコミたくなるほどの面白さだ。もっとも物語の中に、占いなら「当たるも八卦、当たらぬも八卦」で許されるからいいのだ、という台詞がある。つまり作者は、過去ならVRで創れるが、未来は不確定性が高く、確率でしか表現できないことは百も承知なので、占いなのだろう。計算づくで書いているだ。

また、「量子コンピューター」の理論そのものは、かなり前から知られているが、その桁外れの演算能力の社会的影響力までは、気がつかなかった。量子コンピューターが、その性能の故に、核兵器レベルの存在になるという認識は正しい。現在、各国がスーパーコンピューターの演算性能を競いあっているのは、安全保障上の理由があるからなのだ。スカラ型で、つい最近まで日本は世界のトップを維持していた。しかし米国が、このままでは安全保障上問題があるという理由で、莫大な研究費をつぎ込みトップを取り返してしまった。今では、日本は中国の後塵を拝するまでランクを落としてしまっている。別にレンホーだけのせいではなく、コンピューターの性能が、日本の安全保障に繋がるという発想が、日本人にはないのだろうな。

ま~とにかくこの小説が書いている内容には、いろいろと考えさせられる。最大のテーマ「神」に関する考察も、納得感が非常に高いのはさすが。また今回も機本らしさは全開で、いかにもハードSFらしい理論とライトノベル的キャラのギャップは相変わらず。しかし、今回は美少女キャラは登場せず、等身大の地味で内向的な文系女子大生が主人公。それは別に良いのだが、やたら悩みまくるのには閉口した。このキャラでは、せっかくのSF的ガジェットが生かされていないと思うのだが・・・。

SFとしてのアイデア、神に関する哲学的見解、予測できない展開など、どれも素晴らしいのだが、小説としての完成度は今一つなので★★★になってしまった。惜しいのだが、我が輩としては満足感の高いSFであった。