お気楽なタイトルとは裏腹に、舌鋒鋭いマスメディア論である。2010年新書大賞受賞の名著「日本辺境論」
の著者が出した、2011年新書大賞3位の、知的興奮を味わうことができる新書なのである。

新書大賞を受賞した勢いで書いた企画物などではない。内田教授の大学での授業内容を要約したものなのだ。その割には、と言っては大学に失礼なのだが、非常に知的レベルの高い、「日本辺境論」に匹敵する内容となっている。最近とみに脚光を浴びてきた内田樹の名に恥じない著書なのである。

近年、新聞部数の激減、テレビ視聴率の低下、出版不調など、マスメディアの深刻な危機が騒がれている。一般的には、インターネットの普及が原因とされているが、真の原因は、メディア自身に内在しているとし、メディアの社会的存在意義から探っているのだ。その論旨を簡単に目次から拾うと、
・キャリアは他人のためのもの
・命がけの「知」を発信するのがメディア
・クレイマー化するメディア
・マニュアル化したメディアの暴走
・変化すべきでない「社会的共通資本」
・読者はどこにいるのか
・贈与経済と読書
となる。

乱暴に要約すると、メディアの不調は我々の知性の不調にあり、知性に欠けたメディア自身が原因で瓦解しているだけだ、と。

出だしはなぜか、キャリア形成の話から入る。まずこの意見がユニーク。「適性と天職」から就職先を探すことが、そもそもの間違い。適性は仕事をするから見つかるもの。自分の適性は、仕事の中から発動するものであり、キャリアは「他人のため」に形成されるのだ、という。確かにそうだ。仕事なんぞは、やってみなきゃ自分に合ってるかどうかはわかるわけがない、というのが実感だしな。

お次がマスメディア批判。命がけの「知」を発信するのがメディアだ、という。ここでメディアとは、新聞などのジャーナリストと同義語で使っているが、今のマスメディアは思考停止に陥っており、パターン化された言説でしかない。一見して弱者の味方の論調で意見=クレームすると、自己批判もせずたれ流しておしまい。今の医療崩壊を引き起こしたのは、マスメディアが原因だという。このあたりは、海堂尊の一連の主張と同じだ。

最近のコロコロわる政治状況は、政権批判しかできないマスメディアが主要な原因ではないかと、我が輩も漠然と感じていた。それもこの本を読むことでスッキリした。つまり、何事も変化しないと商売にならないマスメディアは、安定化を本質的に求めていないのだ。このため手当たり次第に告発し、凶弾し、クレイマー化し、変化を求める。国民は毎年首相が変わることを求めていないのに、最近はまるで首をすげ替えることが目標であるかのような論調となっている。

本来なら、社会には教育とか医療のように簡単には変えてはいけない「社会的共通資本」がある。そんなところに市場原理を入れるから医療崩壊、教育危機に陥るのだと。

また、読者不在の著作権論争にも苦言する。本はそれ自身に価値があるわけでなく、読者がいて初めて価値が生じるのだと。無闇に著作権ばかり主張し、図書館に新刊を置くななどとは読者不在の暴論だという。だから電子書籍への版権や著作権の提供は当然であり、読者の利便性を優先しろともいう。だが、内田自身は「本」そのものにも価値があり、書架に並べることの有用性も説く。

こんなテキトーな要約では、意味が通じないかもしれないが、きちんとこの本を読めば、内田樹の主張はわかるはずだ。最近のマスメディアの論調に何となく違和感を感じていたのだが、この内田樹の説得力で、わだかまりが解けたような気分になる。なかなか知的好奇心をかき立ててくれる、名著なのであった。お薦めです。