何十年もの間、小説を読み続けてきて良かったなあと思うことが時々ある。そう、この「DIVE」のような小説に出会った時だ。傑作である。私が、スポーツ青春小説が大好きだからではない。小説として素晴らしいのだ。
「カラフル」、「アーモンド入りチョコレートのワルツ」、「風に舞うビニールシート」と、傑作を出し続ける森絵都の、2002年の作品である。
高さ10メートルの飛び込み台からジャンプするダイビング競技。そのわずか1.4秒の演技に魅せられた少年達は、オリンピック出場を夢見ていた。ところが少年達が通うダイビングクラブの存続条件が、なんとこのクラブから1年以内にオリンピック選手を出すことだった。両親が元オリンピック選手のサラブレッド・富士谷要一、祖父が伝説のダイバーだった野生児・沖津飛沫、ダイヤモンドの瞳を持つ素直な坂井知季。同じクラブの三人はライバルとなり、新任女性コーチの過酷なトレーニングに耐え、すべてをダイビングに捧げ、たった1つのオリンピック代表枠を賭けて飛ぶのだった。
文庫本の解説が、上巻が少年野球小説の傑作「バッテリー」の著者あさのあつこ、下巻が箱根駅伝を描いた「風が強く吹いている」の佐藤多佳子と、豪華だ。上巻・下巻と分冊になっている長編に、各々解説があるのは初めてお目にかかった。出版社の気合いが伝わってくるほど贅沢な布陣である。
最近はスポーツ小説流行だが、この「DIVE」が出版された2002年の頃は、それほどではなかったと思う。「バッテリー」はすでにベストセラーだったが、「一瞬の風になれ」、「風が強く吹いている」、「BOX!」などの傑作スポーツ小説の発表は、まだ数年後だ。だからこれらの傑作スポーツ小説は、おそらく「DIVE」のレベルを目指して書かれたのではないだろうか。(勝手な想像だが)
スポーツ小説では、一般的に主人公が様々な試練に耐えて成長する様を描くことになるが、この「DIVE」では、要一、飛沫、知季の3人それぞれの葛藤と成長を丁寧に書き込む。わき役としての、女性コーチ、クラブのコーチである要一の父、水泳協会のボスなども非常に個性的で、生徒達の魅力をいっそう引き立てている。生半可なスポーツ小説と異なるのは、登場人物たちに対する人生観がより深く、より説得力があることだ。誰一人に対しても手を抜くことなく、その生い立ちに由来する生き方、考え方、人生観、その言動、どれもが説得力があるのだ。
また、ダイビングというマイナーな競技なので、その競技の歴史、ルール説明や試合雰囲気などは、丁寧な描写により分かりやすく説明される。スポーツ小説なので、もちろん意外な展開とスリリングな試合はお約束であり、期待は決して裏切らない。一度読み始めたら。一気に最後まで読まずにはいられないのだ。
ま~とにかく、私が拙い説明をしたところで、この小説の魅力の百分の一も伝えることはできそうもない。とにもかくにも、読んでみてくださいな。高校生なら絶対のお勧め、大人にもぜひ読んでもらいたい、青春小説の傑作である。