村上春樹インタビュー集1997-2011

やっぱりな~そうだよな~。というのが読後感だった。ノーベル文学賞候補の世界的作家・村上春樹、初のインタビュー集なのである。
インタビュー嫌いで、人前に滅多に出ないことで有名な村上春樹。彼が、「アフターダーク」以降「1Q84」発売直前までの間に受けた、貴重なインタビュー集なのだ。大半が外国からのインタビュアーであることが春樹らしい。しかしここまで、アジア欧米どころかロシアでも売れていたとは知らなかったな。
当然と言えば当然なのだが、どこの国の人も、やはり春樹の創作の秘密を聞きたがっている。それに対して、毎回春樹はこのように答えている。「書く前にはなにも考えておらず、ストーリーも構成もテーマさえも決めていない。最初は、ある場面のイメージだけしかなく、そこから物語を書き始め、僕はその物語を最初に読む読者であり、それが楽しみだから作家をやっているんだ」と。
春樹文学を語るときに、テーマや言いたいことが分からんだとか、あの謎の解決はどうなったんだ、とかの言い分には、やはり意味はないのだ。「1Q84」の感想にも書いたのだが、春樹文学は読者の解釈次第でどのようにも読めるのだ。なにせ作者自身が、小説に「意味」を与えておらず、作者の内側からわき出る物語を、小説として書き留めているだけなのだ。
デビューしたての頃から春樹を読んでいた僕は、当時からいわゆる「書評」から無視されていたのが謎だった。ま~マイナーな作家だったので、取り上げないだけかな、とか思っていた。しかしこのインタビュー録を読むと、春樹が当時の文壇から無視されていたことが良くわかる。作家仲間とは一切付き合わず、孤立していた春樹は、著名な賞とは無縁の世界で生きていたようだ。当時権威のあった、狭い文壇の世界で無視されると、芥川賞や直木賞の候補にも挙がらないようである。
もっとも春樹は、そんな狭い世界に興味はなかったので、日本文学の伝統には縛られず、自由な形式で小説を書けたのだろうな。それが逆に幸いとなり、世界的な作家として羽ばたけたのだ。ま~何がチャンスとなるかは分からないが、世俗のしがらみが嫌いで、流行作家となったがゆえに外国暮らしすることで、さらに世界的な作家になったのだから、運も味方したのだろう。
ジャズバーを経営していた男が、ある日突然小説を書き始め、いきなり文学賞を取り、特に自覚も無いうちに職業作家となってしまった春樹。肉体を鍛え、長距離ランナー並みの体力を備えることで長編小説を書き上げてきた作家。読み方次第で、様々な解釈が可能な不思議な魅力の小説で、世界的ベストセラー作家となった村上春樹。次作を世界中から常に期待されている唯一の日本人小説家は、まだまだ創作意欲が旺盛のようなので、安心して待っていよう。