久しぶりの村上春樹である。1985年頃に『羊をめぐる冒険』を読んでからのファンなので、かれこれ20年以上読み続けていることになる。初期の『風の歌を聴け』『1973年のピンボール』を出していた頃はまだマイナーで、この独特の乾いた文体が一般にウケルとはとても思えなかった。ましてあの分厚い『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』などは、訳も分からず戸惑った覚えがある。ところが1987年のあの大ベストセラー『ノルウェイの森』でブレークし、一躍著名作家の仲間入りになったことで、かえって出版直後に飛びつかなくなってしまった。古くからのファンほど、一般ウケするメロドラマを村上春樹に書いて欲しくはなかったはず。私が単行本を買っていたのは1988年の『ダンス・ダンス・ダンス』までか。(2002年の『海辺のカフカ』は飛びついてしまったが・・・)
この『アフターダーク』は、村上春樹お得意のミステリアスな雰囲気の小説で、いたるところに謎や仕掛けが散りばめられてある。しかしミステリーと決定的に異なる点は、最後までその謎が解かれることはなく、そのまま放り投げられてしまうのである。お話は、深夜の12時から翌朝7時までの一晩の間に起る、様々なエピソードをつづる形式になっていて、その中に非常に珍しいというか実験的な手法も取り入れてある。つまり小説の視点が、一般的な「私」や第三者の形式でなく、「私たち」というカメラの視線で書かれているのである。これが意外となかなか新鮮で、小説全体に独特の雰囲気を醸し出している。ま~村上春樹は、都会的シャレた会話と乾いた文体、暗喩や象徴を多用した表現が特徴なのであり、この感覚を受容できるかどうかで好き嫌いが出てくる。
村上春樹の小説としては評判があまり良い方ではないが、我輩としては決して嫌いではない。『スプートニクの恋人』の方がはるかに分かりやすいが、このミステリアスで異様な小説も読んでもらいたいのである。