人間くささを、泥臭く描かせたら天下一品・荻原浩のホームドラマである。数年前、朝日新聞に連載されていた新聞小説であり、来年には水谷豊が主演で映画化されるそうである。

左遷された、しがないサラリーマン高橋晃一は、家族4人と1匹を引き連れ、田舎に引っ越してきた。そこは隣家まで数百メートルもある、築百年の巨大な古民家だった。急な転勤に不満だらけの家族は、不思議な座敷わらしに出会い、おびえながらも次第に家族の絆を取り戻してきたが・・・。

「オロロ畑でつかまえて」でデビューした荻原浩は、日本では少数派のユーモア小説を、得意とする作家だ。「誘拐ラプソディ」、「ママの狙撃銃」、
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「母恋旅烏」等、我が輩もかなり前から読んできた。しかしどうも荻原浩の描く人物像が、あまりに泥臭すぎて、気にはなっていたが大好きな作家というわけではなかった。もっとも、ユーモア小説が多いので主人公がスマートな訳もなく、キャラが濃いのはしかたがないのだが。

この「愛しの座敷わらし」では、サラリーマン生活に疲弊した夫、転勤や義母の世話に苦労している妻、いじめにあっている娘、病弱な息子、ボケ始めた祖母を、最初それぞれ濃密に描いている。やがて、期待していなかった田舎暮らしが、想像以上に功を奏し、家族のそれまでの荒んだ生活から、少しづつ脱却していこうという気持ちが出てくる。そして座敷わらしの出現により、この可愛らしくも悲しい存在が、家族みんなの気持ちをひとつにまとめあげ、最後の1行で深い余韻を与えて終わるのだ。

結局のところ、現代的で、都会的で、典型的なバラバラ家族でも、きっかけさえあれば、いくらでも家族の絆が取り戻せる、そんな希望を描いたお話である。サラリーマンなら身につまされる、会社の要求と家族の要求との板挟み。でも、一緒にいなければ家族ではないという信念を、何とか貫き通すことで、高橋家は絆を取り戻せるのだ。家族のあり方を、あまりに身近すぎて気がつかない、その平凡な幸せを、ユーモアたっぷりに描いた長編小説であった。