久しぶりに読んだスパイミステリーの傑作。2009年に吉川英治文学新人賞、日本推理作家協会賞をダブル受賞した作品なのである。
結城中佐が設立した極秘のスパイ養成学校「D機関」。軍隊組織の規律を真っ向から否定する「死ぬな、殺すな、とらわれるな」を戒律に、太平洋戦争での諜報戦を生き抜くべく、成果を上げていくのだった・・・。

いや~面白かった。陸軍のスパイ養成学校という設定が新鮮。コンゲームのような、騙し騙されの世界を生き抜くための、様々なノウハウ・格言が出てくるのも興味深いというか、凄い。作家はこんなことまで考え出すのか、それとも実在した陸軍中野学校の資料にあったのか知らないが、ま~とにかくスパイの奥義を教えてくれるのだ。
格闘術を教えながら、結城中佐曰く「敵と直接肉弾戦を交える、あるいは生存術を駆使しなければ生き残れないなどといった状況は、スパイにとっては-死ぬ、殺すに次いで-最悪の状況だ。だからこそ、準備を怠ってはならない」 とかとか・・・。

最初に魅惑的なナゾを提示し、読み進めるにつれてナゾが深まり、最後は見事に解決する。連作短編集なのだが、ミステリーのお手本のような構成なのだ。特に探偵がいるわけではなく、スパイ同士の騙し合いや仕掛けが意外で面白いのだ。悪魔のような頭脳明晰さの結城中佐のキャラもなかなか良い。

昭和初期の頃の世界情勢や風俗も楽しめ、スパイの心情まで書き込んであるので興味は尽きない。ちょっとご都合主義のようなストーリーも若干あるが、ま~そこは許せる範囲。
最大の欠点は、短すぎること。わずか280頁では、すぐに読み切ってしまったのだ。いや~久しぶりに続きを読みたくなった連作スパイミステリーなのであった。