作家とは凄いもんだ。それが改めてこの作品を読んでの感想だった。恩田陸の小説はかなり読んできたつもりだが、
多産の作家の常で、最近の作品は魅力が減ってきたな、と思っていたのだが、とんでもない。緊迫感あるセリフ、魅惑的な演技が目の前で繰り広げられる、臨場感溢れる舞台を堪能できる傑作なのだ。

芸能一家で育ち、オーラを身にまとって輝く才能を持つ響子。大学で芝居を始めたばかりだが、本能的な芝居ができる天才少女の飛鳥。大物プロデューサーの芹沢は、国立劇場のこけら落としの芝居に、大規模なオーディションを企画。多数の有名女優が参加する中、響子と飛鳥は、火花が散る演技で圧倒する。

恩田陸は、学園ホラー「六番目の小夜子」でデビューした後、傑作ミステリーを連発。ミステリー作家のトップランナーだったが、あまりに多数の作品を乱発し、次第に疲弊してきた。その後次第にSFやファンタジーにも手を広げてきている。しかし好みの問題もあるのだが、我が輩としては最近は今一つだった。それが 「中庭の出来事」 から演劇という金の鉱脈を掘り当て、また続々と傑作を書き出した。

この「チョコレートコスモス」は、才能溢れる若い女優を主人公に、芝居のオーディションを描いている演劇ロマン。そういえば、恩田陸の小説で、まったくミステリー要素のない作品を読んだのは初めてだ。あまりに魅惑的な登場人物と、読みだしたら止まらない面白さに、最後までミステリーでなかったことに気がつかなかったのだ。

舞台演劇がテーマの小説だと、どうしても劇中劇が必要だし、今回はさらにオーディションがあるので、その演出方法まで書かねばならない。登場人物には劇作家もいるので、なんと様々な新作シナリオまで用意しているのだ。この長編の中に、いったい何本分の芝居のアイデアを詰め込んでしまっているのだろう。さすが才能豊かな恩田陸である。

調子の悪い恩田ミステリーだと、出だしは良いが最後は投げ出しているようなところがあるのだが、この「チョコレートコスモス」はそんなことはない。余韻のあるラストで、次回作につながっている。続編もすでに二作あるようなので、待つのが楽しみな小説なのであった。
昔、「ガラスの仮面」が好きだったアナタ!、ぜひお読みくださいまし。

(注)2016年10月時点でも、残念ながら続編「ダンデライオン」は未完です。