さすが!巧いな~浅田次郎は・・・。やっぱ職人芸だわな。それこそ星の数ほどある青春小説でも、浅田次郎の手にかかると、これほど面白くなるんだ。

東大紛争のあおりで、京大に入ることになった薫は、大好きな日本映画の撮影所で、アルバイトを始めた。そこで友人の清家は、絶世の美女と恋に落ちる。しかし彼女は、三十年も前に死んだはずの女優だった。

浅田次郎の小説は、かなり読んだつもりだが、いわゆる青春小説は、今まで読んだ覚えはない。もっとも、この小説を青春小説と読むか、幽霊談と読むか、ハタマタ活動写真の歴史小説として読むかは、読者次第なのだが。

浅田次郎の小説には、幽霊や怪異はしばしば登場する。撮影所に出没する幽霊のお話も、短編にあったはずだ。そこに70年安保時代の風俗と恋を絡ませ、活動写真の歴史で味付けしたのが、この小説という訳だ。安直に要約してまうとこんなもんだが、そこは職業作家の職人芸で一気に読ませてしまうのだ。

このお話のパーツパーツを取り出すと、どこかにあったような設定が多い。東大紛争で東大受験ができなかった薫くんは、庄司薫の「赤頭巾ちゃん気をつけて」だし、京都のヘタレた大学生活と言えば、森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」とか、数多い。しかし、懐かしの昭和四十年代の風俗を背景に、怪異な現象に戸惑いながらも、純愛と友情を貫こうとする京大生・薫の物語は清々しく、魅力的だ。

ありがちな学園生活での青春物語にせず、ウブな大学生の恋物語りでもなく、おどろおどろしい怪奇談にも、浅田はしなかった。もしかしたら浅田は、日本映画の黎明期から、興隆期を経て衰退期に至るまでの歴史を、大部屋女優の悲しいお話を借りて、語りたかったのかもしれない。それは、この小説から日本映画・活動写真への深い愛情が感じられるからだ。

青春の恋、友情を、セピア色の郷愁と共に思い出したい人に、お薦めの小説でした。