歴史的名著「ゾウの時間ネズミの時間」の著者が、再び名著を上梓したのだ。現代文明に警鐘を与える現代人必読の書なのだ。
とりあえず目次を拾うと

1.サンゴ礁とリサイクル
2.サンゴ礁と共生
3.生物多様性と生態系
4.生物と水の関係
5.生物の形の意味
6.生物のデザインと技術
7.生物のサイズとエネルギー
8.生物の時間と絶対時間
9.「時間環境」という環境問題
10.ヒトの寿命と人間の寿命
11.ナマコの教訓

となる。文明論と銘打っていたので、お堅い文明論を展開するのかと思いきや、この目次のように大半は生物学の話だ。しかも、サンゴやナマコというマイナーとも言える生き物の話なのだ。最初は戸惑ったが、読むにつれて、これは画期的な論考だということに気がつく。

現代人が文明を語るときには、どうしてもテクノロジーをベースにした機械文明を、中心に据えてしまう。それこそ無自覚にだ。
これは、近代が近年急速に発展した機械文明、つまり技術の進歩に依るところが大きいからだ。ところがこの「技術」は、電気工学だろうと化学だろうと、基本的には数式で表現できることが前提となっている。高度消費経済社会においては、大量生産できることが重要なので、安定的に生産するためにも正確な再現性が必要だからだ。
つまり、全ての事象は数式で表現する必要があるので、技術者は物理学的・数学的にしか思考しない。ここを著者の本川が批判する。もっと生物学的な発想をすべきだと・・・。

自然界には、人工的な直線は存在せず、円や円柱など「球形」を基本系とし、柔らかに変形するデザインが基本となっている。これは、すべての生物の基本素材である「水」を「膜」で体内に取り込んでいる為だ。太古からの環境である「水」を体の中に取り込むことで、生物は自然に対して常に適応し続ける「状態」を構成し、30億年もの間生き延びてきたのだ。

ところが人間は、自然を「支配」すべく、直線的で堅い構造物で対抗している。つまり人間にとって、大自然は常に「克服すべき相手」だったのだ。このため、必然的に人間は自然を破壊し、環境問題を引き起こす存在となった。

日本という国は、古来から自然に対して畏怖の念を抱き、八百万の神として敬い、自然と共に生きようとしてきたはずだ。ところが西洋近代文明とともに、そういった素朴な信仰心は途絶え、荒ぶる自然に対しては頑丈さで対抗しようとした。しかし人間の浅知恵では、所詮生半可な構造物なんぞ、たかだか数百年で風化してしまうのだ。

生物は、生殖という行為で自分自身のコピーを創り、永遠に生きようとする戦略を選んだ。人間はせいぜい50~60年の寿命を、医療技術でやっとこ80年まで延ばしてきたが、そろそろ限界だろう。人間も生物なのだから、個体寿命を延ばそうなどとせず、「種」としての寿命を延ばすのが本筋だ、というのが著者の主張だ。つまり「種」としての人間が存続できる環境を守ることこそが、最も重要なはずではないか、と言うのだ。子や孫たちも、自分と同一視することで、地球環境を守ることが、自分を守ることになる、という考え方だ。キャッチフレーズ的に言えば「エゴからエコ」だろう。

この新書の後半は、「ゾウの時間ネズミの時間」と同じ論説となっているが、未読の人にはあったほうが親切だ。ま~とにかく、目から鱗の論考が多く、如何に自分が狭い視野でしか考えていなかったかを、思い知らされる新書なのであった。現代人なら、とにかく読むべき必読の書なのである。