直木賞を受賞した東川篤哉のデビュー作である。ユーモアミステリーにおけるエースなのだそうだ。

烏賊川市(いかがわし)に住む貧乏学生・戸村は、元恋人が刺し殺された夜、一緒だった先輩までも殺されてしまった。連続殺人事件の容疑者となった戸川の運命は・・・。

烏賊川市シリーズの1作目のようだが、我が輩はこの「密室の鍵貸します」が、東川篤哉の初めての小説だ。「謎解きはディナーのあとで」で、直木賞を受賞するまでは、この作家をまったく知らなかった。ユーモアミステリーという、ジャンルが特にあるわけではないのだが、ま~このような作品に、我が輩が今まであまり興味がなかったからだ。

やはりミステリーで直木賞を受賞した北村薫が、「覆面作家]シリーズというユーモアミステリーを書いているが、残念ながら我が輩の好みではない。北村薫ならデビュー作の「円紫師匠と私」シリーズや、直木賞受賞作の「ベッキーさん」シリーズの方が格調高く、断然面白いのだ。

元々ユーモア小説は、絶対数が少ないので、ユーモアミステリーとなると、かなり珍しい。この東川篤哉が、その貴重な分野でエース級と言われるのは、ユーモア小説にも関わらず、ミステリー部分が本格的だからだ。「密室」というミステリー作家なら誰でも挑戦したくなり、かつありとあらゆるパターンが出尽くしている魅惑的テーマを、東川篤哉は上手く料理しているのだ。

中学生の時から、ディクスン・カーを愛読していた密室好きの我が輩としては、タイトルに密室が付いていたので、今回この本から読まないわけにはいかなかったのだ。

ま~トリック自体は、よくあるものだし、複数の偶然を組み合わせた手法はあまりフェアとは言えない。しかしミステリーとして重要なのは、不可能性の高い「謎」であり、その最先端にいるのが「密室殺人」だ。その最も困難なテーマに挑戦し、かつ成功したのがこのミステリーなのだから、評価が高いとは当然だろう。さらにユーモアという難易度の高い手法で、読者を楽しませるサービス精神も、さらに評価を押し上げているようだ。

ということで、この「密室の鍵貸します」は、本格ミステリーでありながら、かつユーモア小説という希有なエンターテイメントなのであった。