いや~凄いですな、小説といものは。これだから読書は止められないのですな。2004年に怪作「空中ブランコ」で直木賞を受賞した奥田英朗が、すべての働く女性のために書いた、圧倒的に面白い短編集なのだ。

「ヒロくん」女子総合職として初めて課長に抜擢された聖子は、年上の係長に手を焼いていた。聖子の夫・ヒロくんは、年収が妻より低くても常に聖子を暖かく見守っていた。
「マンション」34歳のゆかりは、自分のためにマンション購入を決意したのだが・・・。
「ガール」いつまでもガールでいることに疑問を感じてきた、32歳の由紀子。ブルーになりかけても、38歳先輩女子の変わらぬ愛らしさが、心の拠り所だった。
「ワーキング・マザー」バツイチでシングルマザーの孝子は、小学生の息子を育てながら、営業職として奮闘していた。
「ひと回り」ひと回り年下のイケメン青年を指導することになった34歳の容子。その新人が気になり、仕事が手に着かなくなってしまい・・・。

いや~どれもこれも、女性心理を微に入り細を穿って、リアルに書き込んでいる。ここまで現代女性の心の綾を、圧倒的な筆力で書き込んだ小説を読んだのは初めてだ。それどころかファッションセンスも抜群だし、メイクアップだのネイルだの、普通の男ならあまり気にしないディティールへの目配りも抜かりない。

もっとも我が輩は男なので「リアル」かどうかは定かではないのだが、「共感した」「感動した」「私そのまま」という女性達の感想がネット上にあふれているので、やっぱこのまんまの気持ちなんだろうな。

そういえば北村薫のデビュー作「空飛ぶ馬」が出版された時も、主人公の女子大生の心理描写があまりに上手く、作者も素性を隠していたため、著者は女子大生かと騒がれたこともあった。北村薫の場合は、女子高の教員という経歴もあるのだが、奥田英朗はなぜこんなにも独身OLの心情を理解しているのだろうか・・・謎だ。

我が輩も二人の子供が乳児の時は、保育園まで毎朝送っていったり、毎晩寝かせつけたり、熱がある時は会社を休んで子育てをしていた。なのでベビーシッター情報とか、いざという時の近所付き合いとか、マメだった。これもヨメさんが、休みづらい職業で、お互いの両親とも遠隔地で頼めなかったこともあるのだが。で、それなりに子育ての経験は積んできたつもりだ。今の時代と違い、男の育児休暇なんぞ考えたことすらない時代だったので、珍しい方だったはず。そんな経験があるので、乳児を抱えた女性の部下には、保育園やベビーシッターのノウハウを伝授してあげ、結構重宝がられていたもんだ。

閑話休題、そんな昔の経験に照らしても、シングルマザーの話や女性管理職の悩みの話などは、非常にリアルだ。リアルすぎて身につまされてしまうほどだ。だからというわけでもないのだが、アラサー独身女チョイ前は「負け犬」とか言われていた女性たちの心情が、やたらリアルに感じられるのだろう。

我が輩の職場には、アラサーどころかアラフォー独身女がゴロゴロしているが、普段はこの小説に登場する女性たちのような素振りは、微塵も見せない。しかししてその実体は、こんなもんだろうな。裏でコソコソ合コンやったりした噂も、漏れ聞こえてるし・・・。

ま~それにしても、この「ガール」での女性を見る目は温かい。アラサーだろうがなんだろうが、常に前向きに「年齢」に対して立ち向かう心構えが気持ちいい。感動的でさえある。働く女性ならぜひ、女性だけでなく男性もせひ、読んでもらいたいお話ばかりなのであった。