北村薫「スキップ」新潮文庫 ★★★★★

北村薫【時と人の3部作】『スキップ』『ターン』『リセット』の一作目である。直木賞候補に推されたそうである。間違いなく名作なのである。北村薫ファンでなくともぜひ読んでもらいたい。
お話は、17歳の女子高生がある日突然42歳になってしまったら、というSFなどでありがちなパターン。しかし北村薫の手にかかると、こんな陳腐なプロットでもすばらしく感動的な作品に仕上げることができるという、お手本みたいな小説なのである。
昭和40年代に女子高の二年生だった主人公は、自宅でウトウトしていて目が覚めたら、いきなり17歳の娘と夫がいるがいる国語教師になっていた。孤独感に苦しみながらも、女子高性の心根のまま娘や夫の温かい協力の下で、前向きに胸を張り生き抜いていこうとしていく。
北村薫の小説に登場する主人公の女性は、みな凛とした清々しい美しさ、そして強さを兼ね備えている。どんな逆境下においても、弱音を見せず凛々しく立ち向かおうとしていく。そんな健気な主人公に読者は引き込まれ、そして応援していきたくなるのだろう。そう、健気なのである。まだ少女のはずにもかかわらず、こんな残酷な境遇に置かれたのに立ち向かっているのだから・・・。
「少女なのに」それこそが作者の術中なのだろう。このプロットの必然性もここにある。少女がいきなり母親に先生になったら、どう反応し、どうし対応するのか、普通の人なら絶望し運命を恨み、まともな生活ができるとも思えない。しかし作者は、驚異的な記憶力で昭和40年代を再現し、現代とのディティールの違いを際立たせ、細々とした生活描写を積み重ねながら、衝撃、とまどい、悩みに陥る主人公が、いかに抜け出していくかを、きめ細やかに描き出していくのである。
さすが高校の元国語教師だけあって、女子高生の生活、行動、生き様、考え方など実にリアル。教師の仕事の具体的なテクニックや方法論まで、詳細に事細かく描写しているため、非現実的なお話を現実感のあるお話に、見せる事に成功している。もっとも高校教師だからといって、ここまで高校生の心情を理解できる教師が、めったにいるとも思えないのだが。
男性である北村薫が、若い女性の心情をここまで表現できるのは、やはり確固たる女性の理想像を持っているからなのだろう。純粋で潔癖で優しくしかも強さまで兼ね備えた、古典的な大和撫子。現代ではもしかしたら絶滅しているかもしれない、女性の理想像。あまりにも完璧過ぎなので、時間を飛び越えることよりも、こんな女性がいることの方が非現実的なのかもしれないのだ。
凛々しさとはどういうことか、優しさはどうすれば発揮できるか、本当の強さとは何か。若い頃のこんな想いを改めて思い出したい人は、この「スキップ」を読めば思い出せるのである。