小池真理子「律子慕情」★★★

恋愛小説は苦手だったのだが、小池真理子の短編を読んでからは、タマには読んでみるのもんだな、と思うようになってしまった。う~むポリシーが無いなあ。ということで、『律子慕情』である。いかにも女性好みのタイトルなのだが、これが意外と中身も良かったのだ。
11歳の少女「律子」が様々な恋の遍歴をしながら23歳の女性に成長するまでを、大学紛争の時代を背景に描く連作短編集なのである。小学校の時は居候していた美貌の叔父に思いを寄せ、中学校では不良少年と付き合い、高校になると妹の家庭教師に恋をし、大学では恋人の兄にも心を動かされる。恋多き女性の繊細な心情を、強烈な政治の時代であった70年アンポの風俗を取り入れ、著者の分身のごとくあくまでも優しくノスタルジックに描いている。
この小説では一人の女性の、小学生・中学生・高校生・大学生・社会人、それぞれの年齢に相応しい様々な恋物語が、アラベスクのように編まれている。しかも律子の周りでは、毎回のように「死」が訪れる。律子が好きになったその人や、近しい人が死んでしまう。そのための喪失感を抱え込み、その人が残していった想いを胸に秘めながら、律子は健気に乗り越え成長していくのである。恋多き女性は失った人の亡霊と出会い、魂に触れ、悲しみ、悩み、やがて乗り越え、そして再び恋をするのだ。
やはり女性にとって、恋は永遠のテーマであり、見果てぬ夢なのであろう。いくつになっても、たとえ失うと分かっていても、恋に夢見ることができるのは女性の特権であり、また時代によらないものなのだ。だからこそ、いつの時代においても、恋愛小説は廃れることもなく、永遠に読み継がれていくのだ。