北村薫「ターン」★★★

北村薫「時と人の3部作」の二作目である。一作目『スキップ』では時間が25年跳んでしまったのだが、この『ターン』では、真希という女性が24時間という時間の中に閉じ込められてしまうお話。
ループした時間の中に閉じ込められるお話はいくつかあるが、有名なのはケン・グリムウッドの名作『リプレイ』がある。この小説は、10年ぐらい前に知人に薦められて読んだのだが、なかなか良くできたお話であった。同じような設定で北村薫がどんな話しにするのかが楽しみだったのだが、さすが北村薫らしいラブストーリーになっている。
ダンプカーと衝突してしまった売れない版画家の真希は、目が覚めたらいつも通りの自宅にいた。しかしこの世界には真希以外の誰もいなかったのだ。しかもどんな一日を過しても24時間後には元の時間に戻ってしまう。いつ帰れるのか絶望していたときに突然電話が鳴り、元の世界に細い線が繋がった。やがて電話の声だけを頼りに、真希は絶望の淵から何とか這い上がろうとしていく。
この北村薫の「時と人の3部作」は、『スキップ』もそうだが、プロットだけみると安易な設定のSFのに思えてしまう。しかしどの作品も、細やかで丁寧な描写を積み上げることで、不自然な状況をリアルで詩情溢れる作品に仕上げている。粗筋や解説をいくら読んでも、北村薫の魅力は分かりようが無く、やはり作品を読むしかないのである。逆に言うと、日常生活のそれこそ瑣末な描写を延々と読むことになり、ストーリーをドンドン追いかけたい読者にとっては辛いかもしれない。3部作の中で特にこの作品だけは、設定が現代なので視点の意外性が無く、『スキップ』や『ターン』のような過去の文化や風俗を垣間見ることもできない。その意味において特に前半は退屈で長すぎる感じはする。しかし電話がかかってきてからは、北村薫の面目躍如たる健気で真摯なラブストーリーに変容していく様はさすが。最初は違和感のあった二人称表現の謎まで解くあたりは、ミステリーらしさを感じさせてくれる。
3部作として上梓されているため、どうしても『スキップ』や『ターン』と比較されがちで、人気が低いようだが、独立した恋愛小説としてみた場合には、なかなか上質のラブストーリーなのである。