池谷裕二「進化しすぎた脳」★★★★ BLUE BACKS

久しぶりのブルーバックスである。中高生の時はそれこそ夢中になって物理学やら生物学やら宇宙の話など様々なジャンルのブルーバックスを読み漁っていたものだ。20世紀はラララ科学の時代であり、このブルーバックスは科学技術の進歩が手放しで喜ばれていた時から刊行し続けている、稀有な科学新書シリーズなのである。ま~それ以来の何十年ぶりかで手にとってみた。
この『進化しすぎた脳』は、東大の若き神経生理学のエースが、高校生を相手に脳についての最新情報を交えた講義を記録したものなのである。これが意外となかなか知的興奮を味わえる良書だったのだ。この「脳」についての情報は、最近のSF小説や生物学系の新書などで読んでいるので、それなりに知ってはいた。しかしこれらは断片的な情報のため、あまり体系的な話ではなかった。この新書も高校生を相手に講義しているので、脳について体系だった話をしているわけではないが、最新の学会情報を取り入れ、幅広く網羅的な話題を提供してくれているのだ。
もちろん脳の構造や細胞レベルでのメカニズムの解説が大半なのだが、従来からある脳の解説書と大きく異なるのは、「心とは何か」まで踏み込んでいるところにある。今まで科学者が議論を避けていた、「心の存在理由」や、「心と言葉の関係」など、哲学に近いところまで言及しているのだ。しかも哲学とは異なり、理論をベースにした説明なのでなかなか説得力がある。人間の精神分野まで理屈で解説されるのは、ま~良いことなのかどうかは分からないのだが・・・。
最後の章では、脳科学を研究している学生達との議論を載せている。これもなかなか良い。指導者としての立場で、学生達にテーマを与え、考えさせ、議論を導いていく。優秀な研究者であると同時に、優秀な教育者であることが良く分かる。とにかく、大脳生理学について今まで特に興味がなくとも、専門知識を持たなくとも、知的好奇心がある人なら必ず面白いと感じるはずである。