明石散人「日本史快刀乱麻」★★★ 新潮新書

博覧強記の鬼才が日本史の定説を覆す!という宣伝文句の新書なのである。作者である明石散人という人物を我輩は知らなかったのだが、歴史、政治、美術、物理などのあらゆる分野にわたって博覧強記なのだそうだ。
内容としては、「将棋の寝返り文化とは」「幽玄・侘び・寂びの謎」「日の丸は国旗にあらず」「宮本武蔵は真言密教の行者」「江戸期の通貨政策は世界最先端」「忠臣蔵に込められた数字」「なぜ紅白はおめでたいのか」「公平と平等の違い」など、バラエティに富んだというか、互いに関連性の無いテーマに関して、薀蓄を傾けている。これらの「新説」は確かに興味深く、それなりに説得力もある。普段何気なく使っている言葉のルーツを解説されることで、その言葉の持つ本来の意味を再認識し、誤用を防ぐ効果はある。例えば日本固有の文化であるはずの「幽玄・侘び・寂び」の概念などは、漠然とした感覚でしか知らなかったが、この本では明快にその概念の解説をしてくれている。
オビの宣伝で京極夏彦が「推薦不要。賢者必読。」と書いているが、そういえば京極の大傑作「鉄鼠の檻」は、ミステリィというより禅の解説書なのだが、なんとなくこの明石散人の言説に近い気がする。あまり根拠は無いのだが、日本古来からの伝統的な概念を、如何にも現代的合理主義で明快に解説する手法は、似ている。もっとも京極の場合は、単純な解説ではなくミステリーの形式をとり、登場人物に語らせるという高度なやり方なのだが。
なにはともあれ、日本では権威のある辞書の説明の間違いを指摘してしまうのだから、まあ自説にはかなり自信があるのであろう。博覧強記といえば「ジャンケン文明論」や「縮み志向の日本人」を書いた李御寧を思い出してしまう。李御寧の場合には膨大な知識をベースに独自の文明論を構築したが、明石散人の場合は少なくともこの本ではトリビア的知識の披露に留まっている。この1冊しか読んでいないのでどれほどの人なのか知らないのだが、噂では有名作家が創作した架空人物だという話もありなかなか興味深い人のようである。