「本の雑誌が選ぶ年間ベストテン」第一位に選ばれ、最近映画化もされた名作である。確かにテンポ良く、読み出したら止まらない面白さでなのある。頑固で短気でチャキチャキの古典的江戸っ子タイプの若手落語家を主人公にし、脇役には、ハンサムだけど内気なテニスコーチ、徹底的に無愛想な女性、生意気な小学生、悪態ばかりつく元プロ野球選手、等などかなり個性的な人物を揃えている。
口下手なためにうまく世の中をわたって生きない人々が、ひょんなことから若手落語家から落語を教えてもらうことになった。、しかしどいつも困ったもんばかりで、喧嘩ばかり。それでもなんとか教えてもらうことで、不器用ながらもなんとか前向きに生きようとしていくお話。自分の気持ちを素直に表出できない現代人を、軽妙な筋立てで面白おかしく、感動的に描く業は並みではない。女性にはからっきし疎い落語家は、不器用な恋をし、振られ、落ち込んで、だけど口下手で無愛想なために失恋した女性とは、初々しい恋を成就させるのである。
常に周囲から期待やプレッシャーかけられ続けられる真面目な現代人は、一度自信を失くすと簡単にドロップアウトしてしまう。そこから這い上がるためには、傍から見ると滑稽なほどの努力をしなければならない。正直で要領の悪い連中ばかりなので、余計にその様はみっともなく、だからこそ感動的でもある。ラストになっても全員悩みを解決できての大団円にはならず、どれも中途半端な状態なのだが、とにかく一筋でも希望が見えてくるのである。落語家のリアルで意外な生態を知る楽しみも有り、なかなかに優れた小説なのである。