これまた久しぶりの小川洋子。あの不朽の名作「博士の愛した数式」以来の小説である。相変わらずシーンと静寂さを感じさせる静謐な文章で、「泉鏡花賞」を受賞した作品なのである。
ある出版社が芸術家達に創作活動の場を提供している『創作者の家』。ヨーロッパの田舎を思わせる無国籍風な世界の中で、その家を世話をしている青年の元に、愛すべき動物『ブラフマン』がやってきた。子犬のようなしぐさと子猫のような愛らしさを併せ持ち、水かきで自由に水を駆け巡る謎の動物との交流を、優しいまなざしで淡々と綴った実に静かで神秘的な雰囲気のお話なのである。
この「ブラフマンの埋葬」では、特に事件が起こるわけではなく、日常の管理人としての生活と動物との触れ合いを透明感のある文章で語っていくだけなのだが、これがなぜか面白いのだ。あの「博士の愛した数式」もそうだが、小川洋子の小説は、丁寧に選ばれた言葉の集積だけで、透明感のある独特の世界を創りあげている。小説には、「物語り」そのものの力でお話の中にグイグイと引き込むタイプと、「ことば」の持つイメージを積み重ねることで独自の世界を構築し、読ませてしまうタイプがある。ミステリーの大半はもちろん前者であり、小川洋子、吉本ばなな、村上春樹は後者に属していると思う。ま~古風な漢字を多用することで怪しげな妖怪の世界を紡ぎ出し、かつトリッキーな展開で読者を惑わす京極夏彦は、両方の特性を持っているのだが。
「物語の役割」という小川洋子の講演録の新書があるが、その中で小説の創り方の秘密を紹介していた。それによると小川洋子の場合は、最初に頭に浮かんだイメージやシーンがあり、そこから物語を紡ぎ出すのだそうだ。なので、小川洋子の小説からは溢れるほど豊かなイメージを受け取ることができるのだろう。これまたお勧めの小説なのである。