相変わらず熱く語る「福井晴敏」渾身の短編集。名作「終戦のローレライ」では、その独自の世界にグイグイと引き込まれてしまったのものだが、この「6ステイン」では、工作員という非日常世界に生きる人間達を、苦悩する等身大の人としてリアルに描いているのだ。福井晴敏というと、「亡国のイージス」や「Twelve Y.O.」など長編作家のイメージしかなかったが、短編もなかなかのもの。単独でも楽しめるし、同一テーマの連作集になっているので、読み進めていく楽しみもある。
引退した元工作員に襲い掛かる敵。巻き込まれた子供を救うべく、死闘に臨んで行く話「いまできる最善のこと」。30年間小型原爆を隠し、愛する男を待ち続けた元芸者。核を取り返しにきた男は、その心意気に惚れて運命を狂わせる「畳算」。現場に不慣れな職員が、代役で若い女性工作員と組んだが銃撃戦に遭遇。ところが事件の裏には意外な工作があった話「サクラ」。子持ちの主婦であるベテラン工作員。家庭と命がけの業務との間で苦悩する姿を描く「マーマー」。隠居した天才スリが、元刑事から依頼された最後の大仕事は、マフィアの息の根を止めることだった「断ち切る」。タクシー運転手をしながら活動する、引退間近の老工作員。ナイフのように切れそうな若い工作員と組み、伝説のスナイパーと対決する「920を待ちながら」。全部で6編。
防衛庁情報局の工作員という非日常世界の最たるものを主人公に据えているが、工作員達をスーパーマンにせず、苦悩する等身大の人として描くことで、熱く濃密な人間ドラマに仕立てているのだ。子持ち女性工作員に現実性があるかどうかは問題ではなく、最前線の現場で働く主婦の葛藤を、より切実に浮き彫りにし、30年間待ち続けた挙句、無残な最期を遂げる「畳算」の老婆も、現実離れしているからこそ女の業の深さに感動するのだ。
それにしても、福井晴敏の文庫の解説に「あさのあつこ」を起用するとは、意外な組み合わせで面白い。ま~ある意味、福井晴敏とは対極にあるような小説家だが、『少年大好き』の「あさのあつこ」が『濃密な』福井晴敏の小説にあこがれる気持ちは分からないではない。
『濃い』小説を読みたい人には、ぜひお薦めの短編集なのである。