「生命とは何か?」という問いに対して、真摯に答えようとした本なのである。しかも平易で叙情的でさえある文章で・・・。これは稀有な科学解説書であり、同時に分子生物学のパイオニア達の伝記でもある。
同じような科学解説書のベストセラー「進化しすぎた脳」では、人類最大の謎である脳の神秘に対して、学生への講義という形式で、平易に語っていた。それに対してこの本は、分子生物学の黎明期における科学者達の活躍から説き起こし、次第に解き明かされる生命の謎を、その科学者達が置かれた時代背景や人間くさいエピソードを交えながら語っていくのである。そこでは、日本における科学者のヒーローである野口英世の、あまり知られていない意外な事実などもあり、科学者達の伝記物として読んでも非常に面白い。
「生命とは、自己複製を行うシステムである」というのが生命科学からの回答なのだが、本書ではさらに「動的平衡」論をもとに、生命と非生命の区別をしようと試みている。美しいDNAの二重らせん構造の発見から54年経ち、科学者達は一歩づつ着実に生命の神秘にたどり着こうとしている。そしてこの「動的平衡」という考え方はなかなか興味深い。つまりこの「動的平衡」とは、それまでの単純な生命機械論などではなく、「時間」の概念を取り込み、「生命とは動的平衡にある流れである」と再定義したのである。この考え方は、エントロピー増大の法則から逃れているように見える生物の仕組みをうまく説明している。どのようにしてこの巧妙な仕組みを、生命が維持しているかは、本書を読んでもらいたい。現代の科学は、ここまで生命の謎に迫ってきていることがよく分かるはず。美しい情景描写を交えながらの分かりやすい解説なので、誰にでもお薦めできる良書なのだ。