2002年から2004年にかけて発表された連作短編集。これが思いのほか良い。最近読んだ話題作「グラスホッパー」の後味が悪かったので、実は期待薄だったのだが、この作家には珍しく愉快に読めた。都会的センスやトリッキーなオチは元々うまいのだが、それにほのぼの感が加わり、誰にでも素直に楽しめる小説になっている。
最初は洒落たというか人を食ったオチの銀行強盗の話から始まるのだが、次第に「陣内」という特異なキャラの持ち主が中心人物であることがわかってくる。過剰なほど自信家の陣内の過去が、時系列的に話が前後しながら次第に明らかになっていく構成も面白い。また、登場人物には頭脳明晰な盲目の安楽椅子探偵もいるのだが、最初の派手な銀行強盗以外は、いわゆる「日常の謎」タイプのミステリーが中心なのだ。
このお話はミステリーというより、やがて陣内がなる家裁調査官という、地味で正義感が強くなければやってられない職業にスポットを当て、青少年達の扱いに悩む調査官達を、心温かく描くことがメインテーマである。当たり外れの大きい伊坂作品の中では、老若男女に安心してお薦めできる、なかなか心憎い小説なのだ。