SF界の大御所マイクルクライトンの問題作。今、地球上で重大な問題のひとつである地球温暖化について、真正面から取り上げたサスペンス巨編なのである。どこが問題作かというと、全世界で歩調を合わせて取り組んでいる、二酸化炭素の排出量削減活動は無意味かもしれない、というのだ。つまり、「現在の温暖化傾向が自然現象によるものなのか、それとも人間の活動によるものなのかは未だに証明されていない」という問題意識をベースに、単純思考の環境保護団体や過激な環境テロリストとの争いを描いているのだ。
ストーリーは、地球温暖化の影響で水位が1m上昇すると国家が消滅してしまう太平洋の国家が、世界最大の二酸化炭素排出国である米国を相手に訴訟する費用を、大金持ちの環境保護活動家が支援するところから始まる。しかしこの大富豪が、環境保護団体の活動に懸念を抱き始めると、交通事故に遭い失踪してしまう。やがて環境テロリスト達の過激な活動の実態が次第に明らかになり、大富豪の秘書や弁護士達が世界各地で激闘を繰り広げていくことになる。全体としては世界をまたがるサスペンス巨編なのだが、クライトンらしくミサイルを利用して嵐を制御しようとしたり、海底に地すべりを起こして巨大津波を起こそうとしたり、スケールの大きな仕掛けがあってなかなか楽しめるのだ。だが、クライトンの真骨頂は、この小説の中で繰り広げられる環境保護論争の内容にあり、いかに人々が環境保護に関しての実態に無知なのかが、良くわかる仕掛けになっているのだ。
確かに我々は、国やマスコミが喧伝する地球温暖化阻止の大合唱に対して、なんの疑いもいだくことはしていなかった。しかしクライトンは、ありとあらゆる公開されている科学者達の研究成果を駆使し、二酸化炭素の排出量と温暖化傾向の因果関係が希薄か、データを示していく。しかしクライトンは環境保護活動そのものに反対しているのではなく、正確なデータに基づかない主張はエセ科学であり、危険な考えだというところにある。この小説の中で印象的なのは、「現代の政治は、コミュニストの跋扈、環境汚染、過激な原理主義やテロリズムなど、次から次へと社会に対して恐怖の対象を作り出し浸透させることで、統治しようとしているのだ」というセリフにある。なぜこれほどまでに国家が、まだ証明されてもいない事象にたいして、莫大な費用を費やすのだろうか、という疑問がここにある。ノーム・チョムスキーの『メディアコントロール』という著作でもそうだが、国策には常に胡散臭さを感じてしまうのだろう。
環境問題そのものに興味がなくとも、ちょっと暴走気味だが手に汗握るサスペンス大活劇は楽しめるので、お薦めできるSFサスペンス巨編なのである。