「シミタツ」の初期の代表作なのである。日本推理作家協会賞を受賞している1985年の作品なのだ。物語は、一等航海士である柏木が、スパイ船の仕事を親友の成瀬に譲ったことから起こる悲劇を描いている。成瀬は当直中に殺されてしまい、柏木は責任を感じ独自の調査を始める。しかし国家間の対立に巻き込まれてしまい、それでもひたすら真相に迫ろうとした結果、壮絶なラストを迎えてしまう。
このシミタツは、独特の格調高い文体と緻密なストーリーが特徴。特にクライマックスの一気呵成にたたみ掛ける場面では、主人公の孤独と絶望が、体言止めを多用し文語調にすることで読者に迫ってくるのだ。これには圧倒されてしまう。ま~浪花節調だと言ってはミモフタも無いが、この文章の力はもの凄いものがある。難癖をつけるとすると、シミタツのデビュー作「飢えて狼」や「行きずりの街」も、主人公はみな民間人なのに、真相究明に命をかけてしまう愚直と女性に対する一途さが同じパターンなのだ。そこがいいところだとファンに怒られそうだが、とにかく一級品のハードボイルドなのは確か。