本格サッカー小説というのが謳い文句。その言葉に違わず、まさにフィールドでサッカーをプレーしている感覚を味わえる稀有な小説なのだ。最初YA向けかと思い、サッカー好きの息子のために買い与え、我輩は読んではいなかった。しかし息子はあまりに面白かったようで、さっさと自分で残り2巻を揃えてしまったのには驚いた。そのくらいサッカー好きにはたまらない小説なのだ。
16歳のリュウジは、日本での限界を感じて単身スペインに渡る。家族や恋人との葛藤を乗り越え、スペインプロサッカーの予備軍の中でもまれながら、次第に頭角を現してくる。やがて念願のプロチームの一員に加わることを果たし・・・。(01-02巻)
日本ではあまり知られていないスペインリーグの裏側まで丹念に描きながら、動きの激しい球技を言葉だけで生き生きとリアルに描写できるのだから凄い。言葉の通じない異国での生活描写を交え、団体戦であるサッカーの戦術に組み込まれながらも、個人技を披露できなければ這い上がれない選手達の苦悩など、実にリアルなのだ。
1年が過ぎ、その才能を見込まれ他のチームにレンタル移籍したリュウジ。単身フラメンコの地で、熱い恋をしてしまう。熱狂的サッカーファンであるスペイン人の中で、強豪チームとの戦いに明け暮れながら、少しづつ大人になっていく。韓国人の友人でありライバルであるパクと、思わず日本人論を語る様はとても高校生とは思えないが、それはさておき、とうとうスペインチームの選手として日本に降り立つまでになる。(02-03巻)
サッカー界にこんな天才高校生がいたらな~という日本人の願望を、見事に具現化しているかのようだ。現役Jリーガーのアドバイスを受けたフィールド感覚、まるで映像を見せられているような選手の華麗な動き。細かな戦術や選手の心理状況など、サッカーの入門書、否解説書としてもお薦めなのだ。
とうとうアテネの五輪代表として招集されたリュウジ。彼を選んだ監督の真意はどこにあるのか?3巻目になると一転して、今度はルポライターである父親の視点から、監督の話が中心になる。どのようにして自分の戦略をチームに浸透させ、まとめ、勝利に導くのか、いかに監督業は孤独で過酷な職業かを語っていく。(03-04巻)
実際のアテネ五輪が行われる前に書かれたストーリーは、日本人の願望を次々と実現していく。実在の代表選手を多数登場させ、華やかな舞台で活躍する若きヒーローの姿が見られるのも、これで最後。この小説が野沢尚の遺作となってしまう。合掌。