久しぶりの村上龍である。以前は結構好きだったのでよく読んでいたのだが、グロっぽいのが多くなり、最近はほとんど読んでいなかった。しかし「龍時」でサッカー小説が大のお気に入りになった中学生の息子が、Webで探し出してきたのがこの小説なのである。Jリーグ創設やワールドカップ出場などが契機となって、純粋なサーカー小説が増えてきているが、あの村上龍が「龍時」とまったく同じ時期の2002年にサッカー小説を書いていたとは知らなかった。
イタリアのセリエAで活躍する日本人選手『冬次』から、試合で大活躍した選手が心臓麻痺で急死する事件が続いている、との情報があり、友人の小説家『矢崎』が調査を始める。すると、その裏には死を招く最強のドーピング剤の存在が浮かび上がってきた。イタリア・フランス・キューバと調査を進めるうちに、冬次にまで身の危険が迫ってくる。リーグ優勝の懸かった最後の試合で、冬次は爆発的な活躍をするが・・・。
村上龍と親交の深い中田英典寿をモデルに書かれたというこの小説は、ラストの大試合に112頁も使って濃密にサッカーを描いている。「龍時」を読んでいなかったら、とんでもないサッカー小説が表れたと感動しただろうが、残念ながら「龍時」の描写の方が上回っていると思う。ま~ここらへんは好みの問題かもしれないが、「龍時」はあくまで選手の思考と視点でサッカーを綿密に描いていたが、この「悪魔のパス天使のゴール」では観客の視点で俯瞰的に試合が描かれているのだ。やはり「龍時」のように選手の意識で描写したほうが、パスの方法や戦術が良くわかるので、サッカーそのものをあまり知らなくとも理解はしやすい。ストーリーも謎のドーピングの追及が中途半端で、最後はサッカー描写に終始してしまい、結局ドーピング問題はどうなったか良くわからなかった。それでもイタリアサッカー界の裏側というか、過激なサッカー好きの国民性が良くわかり、スペインリーグを詳細に書き込んだ「龍時」と同じハイレベルになっている。それにしても、スポーツをここまで書き込める作家の才能というものは大したものだ、とあらためて感心した次第であった。