なぜか今頃「半村良」なのである。SF黄金時代の1970年代において、SF伝奇ロマンという特異なジャンルを作り上げた人気作家だったのだが、我輩は当時それほど読んでいなかった。『石の血脈』という伝奇小説の傑作を読んで興奮したのだが、その後数冊読んだだけで、この1973年泉鏡花賞受賞作『産霊山秘録(むすびのやまひろく)』という初期の代表作を読まなかったことが心残りだった。それが今頃になって集英社文庫から再発行されたので、思わず手に取ってしまったのだ。
はるか古代から続く「ヒ」一族は、国が動乱期にさしかかると、特殊な能力を使って天皇家の危機を救ってきた。その能力とは、御鏡、依玉、伊吹と呼ばれる三種の神器を使ったテレポーテーション。戦国の世の比叡山焼き討ち、関ヶ原の合戦、幕末の維新、太平洋戦争、そして戦後の混乱期と、四百年の時を越える壮大な物語なのだ。
歴史的事実を織り交ぜながら、言わば歴史の裏面史ともいえるスケールの大きい物語。多数の魅力的な登場人物や複雑な伏線がありながら、最後まで一気に読ませてしまう力量はすごい。当時流行っていたSF作家達との文体とはまったく異なり、歴史小説を思わせる格調高い文体により、SF的小道具もなぜか歴史的史実に思えてしまうのだから大したもんだ。我輩の趣味的にはエンターテーメントの傑作『石の血脈』なのだが、『産霊山秘録』が、やはり正統的な伝奇ロマンなのであろう。