サブタイトルが、『産業医が見た人間関係の病理』という2007年出版の新書。最近は朝日新聞でさえ、『現場が壊れる』のような連載記事を載せる時代になってきた。メンタルヘルスの重要性を説くレベルの話ではなく、まさに職場が瓦解していく様を描くレポートである。どうして日本の職場はこのようなことになってしまったのだろうか?うつ病、メンタルヘルス、成果主義。時代は、今の職場をこのようなキーワードで表すことが増えてきている。この本はまさに、これらのキーワードを軸にして、現場の産業医であるメンタルヘルスの専門家医が書いた、タイムリーな本なのである。
これまでにも「うつ病」やメンタルヘルス系の本は、多数発行されてきていたし、我輩もいくつか読んできている。うつ病という病気そのものを理解する本としては『擬態うつ病』という新書があった。しかし今となっては、名前は何であれ、だからど~すりゃいいんだ、という切羽詰ったレベルになっている。また、この本と間接的に関連する本としては、2006年の話題の本『若者はなぜ3年で辞めるのか? 』もある。この本は、流行の成果主義に切り込み、世代間の格差を真っ向から批判することで話題になり、タイトルが流行語にもなっている。
バブル崩壊後の不況時に年功序列制度は徹底的に批判され、産業界は成果主義に大きく舵を切ってきた。しかも『若者はなぜ3年で辞めるのか? 』で批判されたような、中途半端な形での成果主義をである。つまり、成果主義制度を取り入れた『成果』を見据えないうちに、産業界全体が雪崩をうって導入してしまったのだ。その結果生じたのが、本書『職場はなぜ壊れるのか』で指摘されている「職場の瓦解」であり「うつ病の蔓延」なのだ。本書は、成果主義を取り入れた職場の実態と、心身のバランスを崩しながらも働く人達を取り上げ、成果主義が生む歪みをあぶり出しているのだ。産業医だけあって、統計データだけを駆使するのではなく、現場の実態をよくつかんでいるので説得力がある。労働基準において、労働衛生管理の最重要項目は「作業環境管理」であって、「健康管理」より優先されるのだから、メンタル疾患が蔓延している職場の対策は、社員の健康管理よりも、そのような患者を増やす職場の環境改善が優先されるべきだ、という話は鋭い指摘だ。その通りなのだ。
それにしても成果主義の導入の成果を問われたアンケートで、人事部門や部門長は成果があったと自己満足し、現場の技術者は逆に大半が不満という結果は酷い話だ。だったら成果主義なんぞやめてしまえばよさそうなものだが、今更年功序列に戻れるわけもなく、うまい代案がないために、このままズルズルと行きそうな雰囲気である。著者は「現代社会は、経験知が軽んじられデータ知だけに頼る風潮が強すぎる」と嘆いている。ロジカルシンキングどころではなく、デジタルシンキングでしか考えられない人たちが増えすぎたのかもしれない。この本に、結論があるわけではないのだが、成果主義の負の部分を、技術者達の悲鳴を、世の中に知らしめた功績は大きいのだ。