偶然手にした本が、タマタマ面白かったりすることがあるので、読書はやめられない。当たり前と言えば当たり前なのだが、人気作家が書いた小説がどれも面白いとは限らず、まったくの無名(というか我輩が知らないだけだが)の作家が、とんでもなく面白い作品を出すこともある。なので、ついついウン頼りで知らない作家に手を出してしまうのだ。結果、ま~ハズレも多いのだが・・・。しかし今回はアタリである。なにせ『第3回小松左京賞受賞作』なので、当然なのだろうが。
宇宙を作ることができるのか?という物理学ゼミの課題に、留年寸前の学生と天才女子学生のペアが取り組むことになった。素粒子物理学ゼミでのキャンパスライフと、完成間際の世界最高性能を誇る粒子加速器を舞台に、天才美少女と落ちこぼれ学生が宇宙の作り方に挑む。
アニメチックなイラストに、天才美少女科学者が主人公!というノリでは、ほとんどアニメの世界かと思いきや、これが意外にも量子論がベースのハードSFなのである。というか、「宇宙の作り方」というガチガチハードなSFテーマを、身近なキャンパスライフの中に持ち込み、落ちこぼれ学生を利用して非常に分かりやすい形式で提示した型破りなSF、というのが正しい。
それにしても、素粒子物理学の世界で、日本は世界でトップクラスのレベルにある。最近読んだ「ビッグプロジェクト」という新書でも紹介されていたが、日本には世界に誇れる「核融合科学研究所」のLHD計画があるし、大型放射光施設SPring-8もある。それどころか、素粒子論の基礎を築いたのはノーベル賞科学者の湯川秀樹であった。せっかく日本には、戦前から脈々と連なる物理学の伝統がある割には、最近はあまり脚光を浴びることが少ない。この小説のような、お手軽に読めるハードSFをきっかけに、再び世界を驚かせるような頭脳の出現が日本から生まれてくれることを期待できる、物理学の楽しさを知らしめるSFであった。