「直木賞」受賞のノスタルジックでホラー調の短編集なのである。昭和30年~40年代の大阪の下町を舞台に、子供が体験した不思議で奇妙な出来事を、情感豊に語ったお話が6編。それこそ我輩が、ちょうど子供時代の頃の話なので、懐かしい時代背景だったのだ。もっとも我輩は関東の住人なので、大阪下町の雰囲気を肌で知っているわけではないのだが、それでもこの小説の持つ、濃い昭和の匂いと、猥雑で妖しげな下町のイメージは堪能できた。まして関西圏の人間なら、もっとストレートに共感できるお話だろう。
幼い妹が、ある日突然大人びた言動を取り始め、自分は誰かの生まれ変わりだと言い始めた、表題作『花まんま』。いっしょに遊んであげた病弱な朝鮮人の子が、亡くなってからも遊びに来る『トカビの夜』。聞けば必ず安からかに死ねる呪文を操る『送りん婆』。などなど・・・、ま~それにしても異様な世界が自然に繰り広げられるのだ。全編とも、大人になった主人公が、子供時代を回想して語るスタイルなので、余計に懐古調になるのだが、戦後の残滓が残る昭和はこんなにも妖しかったのだろうか。昭和30年と言えば『55年体制』が発足し、『戦後は終わった』発言もあったが、子供の目線からは、所詮無縁の世界。差別や因習が色濃く漂う世界でも、子供達には何の疑問もあるはずも無く、高度成長時代が訪れる直前の、それこそ日本全体がまだ離陸する以前の時代を捉えているので、妖しげな世界も存在を許されるのだろう。
しかしこの世界は我輩の趣味か問われれば、全編異様な雰囲気が漂うので、そうとも言えない。もっとホッとするお話がいくつか織り交ぜていたなら、気に入ったかもしれないのだが・・・。
Amazonの「花まんま」の読者の書評欄を眺めると、なぜか単行本の読者は絶賛し、文庫本の読者はそれほどでもない。これはだいたいにおいて一般化できると思うのだが、単行本の読者はたいていが著者の熱心なファンであり、文庫本の読者は書店でタマタマ目に留まった本を買うことが多いと思う(というか我輩がそうなのだが)。なので、文庫本読者はその小説に対して思い入れが少ない傾向があるのではないだろうか。だからWebでの書評では、単行本は概して好評、文庫本は好き勝手に書かれることが多いのではないのだろうか。我輩自身も、村上春樹のような好きな作家の新作の場合、文庫になるまで待ちきれずに、さっさと単行本を買ってしまうのである。通勤途上で読むのに単行本は持ちづらいので、できるだけ文庫本でしか買わないポリシーなのだが、やはり好きな作家の新作を3年も4年も待てるわけが無いのだ。もっとも、せっかく単行本を買ったのに駄作だったら、余計ハラがたつのだが・・・。