『夜のピクニック』『三月は深き紅の淵を』『黒と茶の幻想』『象と耳鳴り』・・・。様々な物語を豊に紡ぎだす名手恩田陸。その多数の作品群の中でも、この『常野(とこの)物語』シリーズは、また格別の味わいがある。不思議な能力を持つ『常野一族』、その最初の物語『光の帝国』は、優しさに溢れたファンタジーだった。『蒲公英(たんぽぽ)草子』もまた、上品でなぜか懐かしい風景の物語なのである。
二十世紀初頭の古き良き東北の農村が舞台。村の中心的存在である、お屋敷のお嬢様・聡子と近所の医者の娘・峰子。病弱だが美しく聡明な聡子と、どこまでも優しい峰子。二人のほのぼのとした暮らしぶりが、幼い峰子の視点から語られる。やがてその旧家に、不思議な能力を持つ一族が訪れてきた。そのひと夏の不思議で哀しい経験が、幼い峰子を成長させていく。
二十世紀が始まり、新旧の文化が入り混じり、対立し、やがて怒涛のように時代が人々を押し流していく。そんな時代の黎明期を捉え、美しい日本の田園風景の中に、不思議で優しくも哀しい物語が語られる。素敵な余韻の残る、特に女性にお勧めの作品であった。