いやはや、これまたユニークな小説論なのである。大塚英志といえば、今ではマンガの原作者と知られているが、かつてはマンガを日本独自の文化として、初めて体系立てて論じたサブカルチャー論者としても知られている。1989年に出版された『物語消費論』(最近また再販されたようだが)は、画期的な消費社会論であった。80年代末に子供たちを一斉風靡した「ビックリマンシール」や、「同人誌」に代表されるように、作り手が送り出す「物語」に飽き足らず、その世界観だけを借り、自らその世界を構築・消費ていく様を、大塚は「物語消費文化」と名づけた。大日本帝国が敗れ、70年代にはイデオロギーが消滅し、今さら宗教も信じられない現代日本人の精神構造を、20年以上前にサブカルチャーの観点から読み解いて見せたのだ。現代サブカルチャーの旗手『東浩紀』にも、多大な影響を与えているはずなのだ。
ところでこの「キャラクター小説の作り方」なのだが、角川スニーカー文庫のような小説をキャラクター小説(今では「ライトノベル」が一般的)と、大塚は名付けている。ジュニア向けで類型化されているため、低く見られているこのライトノベルに対して、大塚は近代以前の日本の俳句・短歌・説経節などの文芸は、「型どおりの表現」が当然であった、と指摘している。つまり昔の文芸は「決まり文句」の組み合わせだったが、近代の「写生文」によりパターン化は駆逐されてしまった。つまりパターン化された文芸は、日本古来からある伝統的な手法であり、決して低次元なものではない。「写生」的リアリズムが主流の近代文学に対して、「記号」的パターンで成り立つライトノベルに、文学の可能性まで大塚は見出そうとさえしているのだ。
さらに大塚は、物語の書き方をRPGに倣って指導する。キャラクターの創り方、世界観の構築、ストーリーの構成方法、どうすればキャラクター小説を書けるのかを述べている。しかし、この本は実践的な小説の書き方を期待している読者には向いていない。やはり大塚の小説批評・小説論なのである。初出の雑誌連載時にあった、より実践的な「宿題編」が削除されているのも原因だ。さらにややこしいのは、2003年に講談社現代新書から出たこの本に、補講2編が書き下ろしとして新たに収録され、改訂増補版として角川文庫から2006年に出版されている。 セコく同じネタで二度儲けようとしているのだ。
ま~フツーの読者にとって、「物語」には一定の文法や規則性あり、そのコツを習得すれば小説が書けそうだ、というだけでも十分面白い。とにかく、東浩紀の『動物化するポストモダン』を面白いと感じた人には、お薦めの新書なのだ。