今、最も旬でメジャーな理学博士『茂木健一郎』の『小林秀雄賞』受賞作である。クオリア(数量化できない微妙な質感)をキーワードに、物質である脳になぜ「心」が宿るのかを考察している。
言われるまでも無く、現代は科学至上主義である。科学的思考方法が身に沁みてしまった現代人は、数値化できないものは、あたかも存在していないがごとく、無意識のうちに排除している。したがって脳科学者達は、「心」という厄介なものはとりあえず「無いこと」にし、物質として扱うしかなかったのだ。しかし茂木は、認知科学者として避けてはいけない脳と心の関係を、「サンタクロースはいるの?」という少女の素朴な質問をきっかけに、深堀していくのだ。
瀬名秀明の傑作『デカルトの密室』も同様なテーマだが、SF小説の形式でAIの延長線上に「心」を見出そうとしていた。科学者である茂木は、小林秀雄の論考を推し進めようと、このエッセイのような論文を書いている。どちらもテーマは一緒なのだが、方法論の違いからか、スタート地点の違いからか、ずいぶんと差が出ているように思える。クオリアという概念をやたら持ち出す茂木の考え方は、いまひとつ分かりづらかった。2003年に出版された、ちくま新書の「意識とは何か」という著書もそうだったが、クオリアという概念をきちんと説明せず、クオリアという概念だけで意識という謎を解こうとしているように思える。しかし結論が出るわけでもなく、結局謎は謎のままで終わってしまった。ま~そう簡単に解明するわけも無いのだが、AIの延長線上に可能性を見出したほうが、漠然としてでも分かる様な気もするのだが・・・。とりあえず、あらためて正面から意識とは何かを問いかけた論考なのである。