SF界の救世主「機本伸司」が、デビュー作にして小松左京賞の『神様のパズル』に続いて放つ、傑作長編SFなのだ。小松左京を髣髴させるスケールの大きさと、着想の素晴らしさ。ユニークな主人公と先の読めない展開の面白さ。SF好きにはたまらない。一気呵成に読んでしまったのだ。
温暖化の影響でヒマラヤの氷河湖が決壊。するとそこからなんと5千年前の「方舟」が浮かび上がってきた。その内部から大量の「木簡」が発見されたが、不思議な蓮華模様が刻まれており、そのメッセージを解読すべく世界的な競争が始まった。ところがそこから浮かび上がったのは何とDNA。秘密裏に人間のDNAと合成し、メシアを誕生させようと画策が始まったのだが・・・。
倫理観の無い生命科学者をチームに引き込み、暴走気味にメシアを誕生させようとする「ロータス」。金さえかければ生物をデザインし誕生させることができる近未来のゲノム技術。「ロータス」はテクノロジーを駆使し、その能力さえ不明の未知の生命体を、知的好奇心を満足するためだけのために、手段を選ばず何としてでも生み出そうとする。しかし皮肉なことに、方舟のメッセージから誕生した「メシア」は、そんな暴走する科学に対して警鐘を鳴らし、「救い」を与えてくれるのだった。
SF界の巨匠である小松左京と最も異なる点は、主人公達のキャラであろう。これだけ倫理観の欠如した人物が、強引に物語を引っ張っていく展開は、かなりユニーク。周囲の人物はそれなりに悩むのだが、所詮生命倫理に正解があるわけではないので、引きづられるだけ。このようなストーリー展開だからこそ、生命倫理とは何ぞやという本質論が見えてくる。単なる娯楽SFではなく、人間や生命の本質を考えさせてくれるのだ。難解な専門用語も少なく、最後まで快調に読める傑作SFなのだ。