いや~娯楽小説の王道ですな。極道小説家の主人公が極道ホテルで大騒ぎという、さすが初出誌があの「週刊アサヒ芸能」ならではの、キャラ設定なのだ。夏、秋、冬、春の全4部作と大作だが、あまりの面白さに一気に読めるのだ。
極道小説で人気作家となった木戸には、ヤクザの大親分である叔父の仲蔵がいた。ところが仲蔵は任侠団体専用ホテル、人よんで「プリズンホテル」のオーナーでもあった。そこでは熱血ホテルマン、天才シェフ、巨体のゴンザレス、奇妙な人々が大騒動を繰り広げていた。
第一巻「夏」:定年後に温泉旅行に出かけた夫婦がプリズンホテルに迷い込んでしまった。熟年離婚を切り出すはずの妻は、ホテルで様々な人間模様に巻き込まれ、冷え切った心が次第に溶け出していく。
第二巻「秋」:プリズンホテルに、なんと任侠一家と警視庁の慰安旅行が鉢合わせ。仲蔵親分の恋物語も絡んで、一発触発の危機が続く。
第三巻「冬」:救急医療の最前線で奮闘する看護婦長マリアは、真冬のプリズンホテルで元恋人の医師と出会う。患者を安楽死させ、被告人となった医師、山に死ぬ理由を探しに来た少年、死線を何度も潜り抜けてきた世界的アルピニスト。厳冬の地で様々な”命”が向き合う。
第四巻「春」:木戸が文壇の最高権威「日本文芸大賞」の候補となった。選考結果を待つべく出版社の面々とプリズンホテルに投宿。そこに懲役五十二年の老博徒が現れ、一大賭博が始まったため、またまた大騒動。そして感動の大団円に。
極道が主人公というと、小林信彦の大傑作「唐獅子株式会社」シリーズが有名。1980年頃の小説なので、1994年出版の「プリズンホテル」より、さらに14年も前になる。最初読み始めたときは、どうしてもこの「唐獅子」と比較してしまい、母親や妾に罵詈雑言を浴びせ、小突き回す性格破綻者の主人公・木戸のキャラにも馴染めなかった。しかし「唐獅子」は、当時の最新の風俗を取り入れたブラックユーモアがウリだったのに対し、「プリズン」はドタバタの中に人間の悲喜劇を織り交ぜ、濃くてくさい芝居で笑わせ、泣かせてくれる。どうしようもなく演歌の世界、「つか」にも通じる芝居小屋の世界なのである。
連作の場合、後半になるとどうしても息切れしてくるものだが、第三巻目に大悪漢小説「きんぴか」シリーズの主要人物「血まみれのマリア」まで登場させ、大活躍。メロドラマを魅せてくれる、それこそ出血大サービスなのだ。
とにかく、どこまでも面白くサービス精神に溢れたエンタメ小説である。万人にお勧めとまでは言えないが、とりあえず騙されたと思って読んでみることです。ハイ。