SF界の奇才・機本伸司が、今度は恒星間宇宙船を造ったのだ。『神様のパズル』では巨大加速器による宇宙創生の実験を行い、『メシアの処方箋』では古代からのメッセージとDNA技術で、救世主を創ってみせたくれた。テーマだけ言うと、ハインラインや小松左京のような壮大な本格SFのようなのだが、語り口はいつも下世話な庶民派タイプで楽しませてくれる。
2050年、太陽の活動異常により絶滅の危機を迎えた人類。天文学者の神崎は、宇宙船を5年で建造するという無茶な計画をぶち上げ、資金を募り始める。しかし待ち受けていたのは、予想だにしなかった難問の数々だった・・・。
読み始めは、宇宙船の建造という壮大なプロジェクトを運営する物語なので、小川一水の『第六大陸』のようなイメージをしていたのだが、そうではなかった。最初は資金面、次に技術的課題、最後は政治問題にぶち当たるのだが、宇宙船の建造というエンジニアリング部分は完全にカット。主に、恒星間航行という技術的ブレークスルーが必要なところにアイデアと頁数を注ぎ込み、なかなか夢のある解答を出している。が、宇宙船の具体的な建造まではさすがに省いていた。
ま~機本の語り口では、お堅いエンジニアリングよりか、軽妙な会話とスピーディな展開のほうが似合っているのは確か。また、神崎の所有しているケータイ型PCというかAIとの丁々発止のやり取りも楽しい。このコンピューターにわざと哲学的問題を与えてハングアップさせてしまうやり方などは、機本が人工知能におけるフレーム問題に対して正しい見解を持っているからであろう。これらの小技やガジェットが、作品の世界観のレベルを上げているのだ。
それにしても、機本伸司の小説に登場する主人公は、どれもかなりアクが強く、脇役達も個性的なのだが、語られるテーマは深く壮大でさえある。否、人類の存亡に係わる深刻な事象だからこそ、軽妙に語らざる終えないのかもしれないのだろう。