人気作家・石田衣良初めての、SF長編なのだ。「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」シリーズで、一躍人気作家となった石田衣良だが、洗練された都会風アクションが持ち味。この「ブルータワー」が、意外にも初めてのSF風設定の長編なのだ。
悪性の脳腫瘍ために、余命数ヶ月となった瀬野は、ある日激痛によって意識が無くなった。しかし目が覚めた先は200年後の東京。しかも高さ2キロメートルもある巨大な塔に住んでいたのだ。しかし地上は細菌兵器のウイルスが蔓延する世界。人類は大半が死滅し、残った人々は塔に閉じ込められ、上層階が下層階を支配する完全な階層社会となっていた。瀬野は、この社会が塔と共に崩壊しそうなことを知り、現代と200年後を往復しながら、塔の崩壊を救おうと決意するが・・・。
SFといってもサイエンス部分はあまりなく、細菌兵器に侵され破滅寸前の世界という設定がSF的なのだ。しかも徹底的な格差社会という絶望的な状況の下で、現世で死の宣告を受けた瀬野が、200年後の世界をどうすれば救えるのか、という主題がストーリーを引っ張っていく。もちろん9.11テロが着想のきっかけなのだそうだ。倒壊する巨大タワーのイメージが、この小説の骨格を形成し、テロとその報復テロへの絶望が根底に流れているのだ。
高さ2キロの巨大タワー、インフルエンザウイルスをベースにした細菌兵器、ブレスレット形状の個人用AI(パーソナルライブラリアン)といった、なかなか魅力的で説得性のある舞台設定がこの小説を支えている。もっとも、200年も経たなくともこの程度のテクノロジーは実現してしまうだろう。先日の新聞に載っていたのだが、高さ1キロの巨大ビルが現在競って建てられているそうだ。日本の建築技術なら高さ3キロのビルも実現できるが、場所がないのでまだ建ててないだけ、とのコメントだった。
テクノロジーは加速度的に進化していく。しかし人間の価値観や社会はそう簡単には変わらない。取り扱いが危険なレベルに達したテクノロジーを、品性も欲望も昔のままの人間が、いつまで操れるのだろうか。200年前の人間が、最新のテクノロジーを駆使して社会を救うお話は、人はいつまで経っても進化できない生き物だと言っているようにも思えたのだ。