恩田陸1999年の作品。2002年には映画化もされているようだ。恩田陸はちょうどこのころ、『三月は深き紅の淵を』『象と耳鳴り』『麦の海に沈む果実』と傑作ミステリーを連発し、新進作家から気鋭のベストセラー作家に脱皮する時期だった。だからというわけでもないのだが、この『木曜組曲』も独創的な構成で、かつ非常にミステリアスな雰囲気が漂う心理サスペンスの傑作なのだ。
4年前に謎の薬物死を遂げた耽美派小説の巨匠・重松時子。彼女を偲んで毎年、縁の深かった5人の女たちが時子の館に集っていた。しかし、今年は謎の花束が届いたことにより、いつもと雰囲気が変わってしまう。流行作家、純文学作家、ライター、編集者、出版社の経営者、全員物書き仲間である彼女たちは、時子の死について自らの推理を語りだす。はたして時子は他殺か自殺か?次第に告発の渦になっていく先には・・・。
恩田陸お得意の会話劇。古い洋館が舞台というのも雰囲気を盛り上げる常套手段なのだが、舞台はこの一幕だけ。しかもひたすら5人の女たちがおしゃべりするだけなのだ。このごくシンプルな舞台設定だけで、これだけの傑作ミステリーを作り出す手腕はさすがだ。また、登場人物が全員物書きという、恩田陸jの分身達が実に良くしゃべる。作家の心理ならそれこそ熟知しているので、作家で無ければ決して語れない裏の実情まで、非常に赤裸々な会話がとても興味深い。たとえミステリー抜きだとしても、この作家たちの会話だけでも充分読む価値がある、と思えるほどだ。
恩田陸には、4人の男女が山道を歩きながらひたすら会話するだけでミステリーになってしまう、傑作『黒と茶の幻想』という作品もある。この『木曜組曲』の数年後に書いているのだが、『木曜組曲』で成功した会話するだけの長編ミステリーを、もっと徹底して突き詰めたかったのかもしれない。会話だけのミステリーというのは、過去にあったある事件や出来事を、関係者が秘かに隠してきた事実を、会話を積み重ねていくことで少しづつ明かし、まったく別の出来事に見せてしまう物語のことなのだ。関係者達は、利害関係が複雑なので、相手の言っていることが真実なのか嘘なのかが分からず、次第に疑心暗鬼に陥っていく、というパターンになる。他の作家だと、短編では見かけることがあるが、少なくとも我輩には長編でほとんど読んだ覚えが無い。
ま~何はともあれ、派手なアクションやあっと驚くトリックがなくとも、これだけ面白い物語を紡ぎ出せる恩田陸には脱帽なのである。