今では30冊近くまで達した大ベストセラー「千里眼」シリーズで有名な松岡圭祐が、意外なことにディズニーランド(TDR)を舞台にした青春ものを書いた稀有な作品。別にTDRの裏側を暴く目的で書かれたわけではなく、TDRのバックステージというあまり知られていない世界を描いた、いわゆる青春物語なのである。
TDRでアルバイトをすることになった若者が、念願叶って巨大テーマパークの裏方として働くことになった。夢と希望に胸を膨らませて働き始めたが、パレードに出演するキャラクターの着ぐるみを着付けるだけという仕事の現実に、最初は戸惑うばかりだった。しかし様々な出来事に出会い、次第に裏方としての役目を認識することで、裏方としての仕事に誇りを持てるようになっていくのだったが、TDRを揺るがす大事件に巻きこまれ・・・。
開園して25年経ち、数万人も働いているにもかかわらず、未だに秘密のベールに包まれている巨大テーマパークがもうひとつの主人公。夢と魔法の世界を保つため、開園当初から徹底した情報管理をしていたTDR。このため、意外とこのTDRを舞台にした本が少ないのは確か。そう言った意味では、この『ミッキーマウスの憂鬱』は珍しい小説なのだ。ここには、ほとんど知られていないテーマパークのバックステージが詳細に描かれ、そこで働く多数の若者たちを生き生きと魅せている。しかも松岡圭祐らしくTDRが危機に瀕し、やる気だけは人一倍ある主人公が、奔走して危機に立ち向かっていくサスペンスもある。
小説の持つ楽しみには大きく2つあり、ストーリーそのものの持つ面白さと、その背景にある未知の世界を知る楽しさがある。作家は綿密な取材をすることで、その世界観を構築し、ディティールを積み重ねることでリアル感を生み出す。もちろんその世界の専門家の目から見たら、細々とおかしなところが目に付くだろうが、どうせシロートには知る由も無いし、とにかく面白ければよいのだ。この作品でもミッキーの扱いや着ぐるみの管理など、いかにもそれらしく描かれてはいるが、実際のところは作家の想像力の賜物なのかもしれない。ま~この小説は古典的青春もののストーリー展開なのだが、TDRの裏方を垣間見ることができる情報小説としての価値の方が高いような気もしたのだった。