1999年の「サントリーミステリー大賞受賞作」である。原子力研究所の研究員で、原子力学会技術賞を受賞したこともある程のエンジニアが書いたという異色のミステリーなのだ。さすがエンジニアが書いただけのことがあり、原子力や技術に対する真摯な態度は素晴らしい。
日本を代表するコンピューター開発者に、突然25年前に分かれた恋人から連絡があった。あなたの息子が重体ですと。一度も会ったことが無い息子が追っていた事件を調べるうち、天才プログラマーとして活躍していた息子の恋人ともに、原発建設がからむハイテク犯罪の渦中に巻き込まれていく。
ITバブルが生じる前の時代に、コンピュータ技術者を主人公に据え、原発の本質的課題をテーマにサスペンスを描いたことはすごいことだ。技術者の心情や職業人としてのプロ意識を的確に描写し、原発のメリット・デメリットを冷静に論じれる力量は並ではない。さすがエンジニア作家である。
エンジニアと言うか理工系出身の作家が、最近特に活躍しているように見受けられる。昔はSF作家でさえ文学部出身だった。日本を代表するSF作家である小松左京も、たしか京大のイタリア文学部出身だったはず。医学部出身の作家は以前からいたが、医者が主人公であることが多い程度で、それほど文系作家と作風の違いは無い。しかし知っている範囲では、国立大工学部助教授だった『森博嗣』や、東北大学機械系の特任教授の『瀬名秀明』の作品は、やはり違う。単にキャンパスが舞台になることが多いと言うレベルではなく、作中で語られる科学や技術に対する考え方、思想、方法論がやはりエンジニアの思考方法なのだ。ま~森博嗣だと初期の『S&Mシリーズ』までが顕著だったが、その後は作風が変化していってしまったのだが・・・。
とにかく、この『イントゥルーダー』は、エンジニでも充分納得できる、高度な科学技術を題材にしたハードボイルド調サスペンスなのである。