多彩な作品を上梓する作家だ。デビュー作の「オロロ畑でつかまえて」はユーモア小説。探偵ものの「ハードボイルド・エッグ」、人情ものの「母恋旅烏」などバラエティに富んでいる。ところが今回はサスペンスフルなハードボイルド。しかもあまり前例が無い主婦のスナイパーが主人公なのだ。
幸福だが平凡な日々を過ごす家庭の主婦・曜子。しかし幼いころにアメリカで祖父から教わったのは、射撃・格闘技などスナイパーの技術だった。その曜子の元に届いたのは、仕事をしてみないかという依頼。一度は断ったものの、家族を守るため、曜子は再びレミントンM700を手にするのだったのだが・・。
ま~なんというか、作者は前例があまりない意外な組み合わせを試してみたかったのだろうか。出だしは主婦の日常の細々とした描写から入り、次第に暗殺者としての生い立ちや、「仕事」をしなければならない必然性を語り、後半にはその意外な結末を語る。ガーデニングの草花の手入れ方法と、ライフル銃のマニアックな手入れ方法を、同じように詳細に描写し、主婦と暗殺者という両極端な立場を同じようなレベルで描こうとしている。
殺人者の苦悩を亡霊で表しているところは、伊坂幸太郎の「グラスホッパー」のヒットマンを連想させるような暗さがある。そのためエンターテイメントらしい爽快感はない。「戦闘美少女の精神分析」にあった意見なのだが、『”戦闘”する”美少女”という矛盾した存在は、内面は空虚でなければならない。動機などを与えると現実世界に引き戻される』つまり、どうせ現実にはありえないヒーローの活躍を期待しているのだから、無理やり動機や必然性を与えて現実感を持たせた方が楽しめない、という意味だ。この作品も、家族愛を主体にした苦悩の物語にしたかったのか、スナイパーが主人公のエンタメにしたかったのか、どちらにしても中途半端だという印象を拭えなかった。世の中には高校生探偵が活躍する大沢在昌「アルバイト探偵」シリーズや、ゾンビ探偵が主人公の山口雅也「生ける屍の死」すらある。現実性はどうであれ、もっと徹底して主婦のスナイパーを活躍させて欲しかったのだ。