実に良い!実にバカバカしい話なのだが、とても楽しく、とてもキュートな傑作なのだ。しかもなんと、「山本周五郎賞」を受賞し、「本屋大賞2位」に耀いたベストセラー作品でもあるのだ!
黒髪の「乙女」に憧れ、「意中の人」を京都の夜の先斗町、古本市、学園祭にと追い求める京大生の「先輩」。だけどそんな先輩の想いにもまったく気が付かないのんびり屋の「乙女」。奇人変人が集う、怪しくも奇怪な京都の町で、珍事件が2人を待ち受ける、というファンタスティックなお話なのだ。
最初はただのしょーもない酔っ払いの小話から始まるのだが、これが実に面白い。「森見ワールド」とも言える独特の夢の世界に迷い込む感覚が、どーしよーもないくらい楽しい。デビュー作『太陽の塔』や、怪作『四畳半神話大系』のように、冴えない頭でっかちの若者が、お馴染みのラブコメ・ファンタジーの世界にズンズンと突き進んでいく。
それにしても、「森見体」と言いたくなるほどの特異な文体は、相変わらずの絶好調だ。冒頭から「読者諸賢におかれては、彼女の可愛さと私の間抜けぶりを二つながら熟読玩味し、杏仁豆腐の味にも似た人生の妙味を、心ゆくまで味わわれるがよろしかろう」と、調子が良い。やはり小説は、ストーリーだけでなく文体に味わいが無ければ楽しめない、ということをあらためて気が付かせてくれる。もっとも森見の場合は「味わい」という言葉にはそぐわず、エスプリあるとぼけた自虐体といったところか。とにかくファンタジーな世界を、この文体でさらに魅了してくれているのは確か。
いや~こうなると、ほぼ同時期にデビューした作家・万城目学と、どうしても比較したくなる。2005年万城目デビュー作『鴨川ホルモー』は、やはり京都を舞台に京大生が馬鹿騒ぎをする話なのだが、この『乙女』と設定がほとんど同じ。その後の活躍ぶりもよく似ている。森見のデビューは2003年なので万城目より先だが、年齢は3歳ほど若い。同じ京大出身だし、なんと2007年本屋大賞では『乙女』が2位で、『ホルモー』が6位になっている。ま~お互いにライバル視していることは、容易に想像できる。
2008年最後を飾るに相応しい、とっても楽しく心温まるラブコメの傑作なのだ。ぜひのお薦めなのだ。