希代の語り部である浅田次郎、面目躍如たるミステリィ風連作短編集である。 各界の名士が集う都会のサロン「沙高樓」で、各人がとっておきの秘密の話を語る、現代の百物語なのだ。
三十四代となる刀剣鑑定の宗家当主が明かした秘密とは・・「小鍛冶」。精神科医が悩む奇跡的偶然の連続とは・・・「糸電話」。元名カメラマンが体験した、終戦直後の映画撮影現場での怪異「立花新べえ・・」。ガーデニングの女王と暮らす庭守の老女が語る、名園の秘密「百年の庭」。ヤクザの大親分が出世した訳とは、「雨の夜の刺客」。
どの話も、その世界のプロが語る話なので奥が深い。ハンパなものではなく、その道を極めた人でないと決して経験できないような事ばかりなのである。それこそ生半可な知識や付け焼き刃では、絶対書けない蘊蓄が惜しげもなく詰め込まれているのだ。
我が輩もガーデニングには多少なリとも詳しいが、少なくともその部分の記述に関しては正しい。正鵠を得ている。ま~小説家の中には、その作品の中でやたら蘊蓄を傾けたがる人がよくいる。短編の名手である阿刀田高とか、人気の京極夏彦とか。ま~京極夏彦あたりになると、江戸の怪異談の蘊蓄を披露する目的のために書いたのか!、というような作品まであるのだが・・・。
何はともあれ、この浅田次郎の博識ぶりも負けてはいない。しかも単なる知識の披露ではなく、実体験に根ざしたとした思えない見解を言えるのが凄いのだ。専門家にかなり突っ込んだインタビューをしているのだろうが、それにしても浅田次郎は幅広い分野を書ける作家だということが良く分かる短編集である。