直木賞受賞の傑作短編集である。直木賞そのものは、その作家の代表作を表するものでは決してない。しかし、「つきのふね」「カラフル」「アーモンド入りチョコレートのワルツ」など、次々と子供達のために豊潤な物語りを世に送り出してきた森絵都にとっても、この「風に舞いあがるビニールシート」は、間違いなく代表作の一つになる作品のはずだ。信念を持ち、守るべきものを決め、それを貫き通す、そんな市井の人たちを、とても人間臭く描いている傑作短編集なのだ。
表題作の「風に舞いあがるビニールシート」。紛争地域に飛び込み、国際的な人道支援活動に命を懸け、奮闘している国連職員のアメリカ人。そんな彼を愛してしまった女性が主人公なのだ。大半を国外で過すため、1年間で1週間しか会うことができない妻の立場。いつ死ぬかも分からない夫を心配し、自ら現場に向かえない弱さに葛藤する。そんな女性を、複雑なアフガン状況を背景に、綺麗事でなく人の弱さや醜さも含め、懸命に生きる姿を真摯に描く、感動的な中篇である。そういえば、昨年NHKの土曜ドラマでも放送していたが、やはり感涙ものだった。
お菓子作りの天才パティシエの秘書として、影で奮闘する独身女性。恋人から仕事と恋人のどちらを選ぶのか、と迫られる「器を探して」
行き場をなくした犬を自宅で預かり、その里親を探すボランティアの活動資金を稼ぐため、水商売でバイトする女性を描いた「犬の散歩」。
その他、自らの価値観を信じ、信念を貫き通す、そんな懸命に生きる人々を、生々しく描いた作品ばかりだ。仕事も生きかたも、とてもバラエティに富んだお話ばかりで、森絵都の筆力の確かさを示している。この作品なら文句なしに直木賞である。感動したい女性に、ぜひお薦めしたい逸品なのである。