なんともはや、なのである。男とは女の「できそこない」なのだそうだ。この本は、人生が始まる直前の、男と女を巡るお話なのだ。
と言っても、別に恋愛小説などではない。名著「生物と無生物の間」を書いた、福岡教授の分子生物学の話なのだ。
今まで、男が女より特に偉いとか強いとか思っていたわけでは、決してない。しかし、生物学的にみた場合、圧倒的に女性の方が強いと、ここまで証明されてしまっては、男として立つ手がない。曰く「本来、すべての生物はまずメスとして発生する。なにごともなければメスは生物としての基本仕様をまっすぐに進み、立派なメスとなる。このプロセスの中にあって、貧乏くじを引いてカスタマイズを受けた不幸なものが、基本仕様を逸れて困難な隘路へと導かれる。それがオスなのだ。ママの遺伝子を、誰か他の娘のところへ運ぶ”使い走り”それがオスなのだ。アリマキでも人間でも。」なのだそうだ。酷い言いようだ。
つまり生命の基本仕様は女であり、男は遺伝子を運ぶアッシーくんなのだ。う~む、だから男はいつも女にいいように使われてきたのか・・・。現代の分子生物学が暴き出した真実とは、皮肉なことに男の沽券にかかわること、ではなく単に事実を追認しただけだったか。
この本は、分子生物学の最新情報を単に解説する本などではない。生物にはなぜ男と女がいて、なんでこんな面倒な手続きをふんで子孫を残さなければならないのか、という素朴なテーマを、文学の香りがする文章で、生物学の歴史を紐解きながら書いているのだ。遺伝子の説明が必要なので、どうしてもDNAの振る舞いについての学術的記述が多くなってしまうのだが、専門用語をほとんど使わない説明は読みやすい。オスとメス、男と女の数億年に渡る歴史を、オスが書いた割にはいささか自虐的に綴った分子生物学の名著なのだ。