あの傑作「博士の愛した数式」を書いた、小川洋子の長編である。信頼できる文学賞の一つである谷崎潤一郎賞を受賞した、名作でもある。そういえば、読売新聞の連載小説だったそうだ。
ミュンヘンオリンピックの年に、芦屋の洋館で育まれた二人の少女とその家族の物語。温かで凛とした一家に住む、美しくもか弱い少女ミーナ。そこに1年間だけ住むことになった従姉妹の朋子。コビトカバのいるミニ動物園が庭にある資産家の家族達は、温かく朋子を受け入れてくれたのだった。
小川洋子の作品は、みな静謐で安定している。舞台や登場人物は限定され、季節だけが過ぎ去っていく。悪人は登場せず、人々は善意に溢れ、どんでん返しや衝撃のラストとも無縁の世界だ。それでもズンズンと物語の世界に引き込まれ、いつの間にかそこに浸ってしまうのだ。やはり作者の描く人物像がとても魅力的なのだろう。
小川洋子の創作の秘密は、「1枚の絵」にあるそうだ。これは小川洋子の講演会を収録した新書「物語の役割」に書いてあったのだが、小説を書く時は「頭の中にある1つの絵」があり、その「絵」の中にある物語を語っているだけ、なのだそうだ。