「ひきこもり探偵」シリーズで知られる坂木司の新作。かなりマイナーな作風なので、創元社文庫でしか知られていない作家だと思っていたら、光文社文庫から出版されるとは・・・、メジャーになったもんだ。
歯科恐怖症の女子大生の咲子さんは、ひょんなことから叔父の歯科医院でアルバイトをすることになってしまった。優しいスタッフと、丁寧な診療に触れ、次第に恐怖症も克服できるようになってくる。やがて、患者さんにまつわる謎を、歯科技工士の四谷さんと共に解き始めるようになり・・・。
「ファントムvsファントム」「オランダ人のお買い物」「遊園地のお姫様」「フレッチャーさんからの伝言」の短編が4編。
いわゆる典型的な「日常の謎」派なので、決して人は死なず、細々とした日常における謎を描くタイプだ。北村薫などが代表格だが、北村薫の場合は舞台を明治から昭和初期に置く場合が多く、その時代の日常風景の描写そのものが、特徴にもなっている。
この坂木司の場合は、探偵役もしくはワトスン役の職業や設定に、ちょっとした工夫をすることで特色を出している。
「ひきこもり探偵」シリーズは、文字通り探偵役が「引きこもり」という設定。「きれない糸」では、クリーニング店の店員がワトスン役。そしてこの「シンデレラ・ティース」では、歯医者が舞台なのだ。
名探偵XYZが活躍する、普通のミステリィでは、探偵のキャラも重要だが、殺人に関わるトリックがメインになる。読者はそのトリックを見破ろうと、読み続けるわけだが、「日常の謎」のような作品の場合だと、謎そのものが弱いため、どうしてもそれだけでストーリーを引っ張るのは無理がある。そのため、時代背景や舞台設定などに工夫を凝らすことになる。それでクリーニング店や歯医者などのような、ちょっと特殊な職種を舞台にし、あまり知られていない業界知識を散りばめながら、読者を引きつけていくことになるのだろう。
ま~読者としては、そんな作者の苦労などはあまり関係なく、面白ければよいのだろうが・・・。
坂木司の場合は、さらに主人公のキャラにも特徴があり、やたら泣き虫だ。しかも登場人物たちは皆優しく、善人ばかり。この作品で初めて主人公が女性になったが、今時これほど純粋無垢な女の子がいるのか、というほどの純真キャラ。男にとっては都合の良すぎる設定の気もするが、どうなんだろうか。読みやすく健全なので、女性にお勧めしたいのだが、反応がきになるお話でもあった。