このお話は、「ソングライン」を巡る雄大なスケールのスペクタクルなのだ。「ソングライン」とは、オーストラリアの原住民・アボリジニたちが、大昔に広大な砂漠の中で、歩くごとに目に入ったものに名前を付け、歌の中に組み込んでいったという、歌で作った地図のことだそうだ。
ミュージシャンに成りきれなかった隼人は、ある日オーストラリアに招待された。噂でしか知らなかった曽祖父の遺産を継ぐためには、ある試練を乗り越えなければならないのだ。それは、大砂漠の中の「ソングライン」を、身ひとつで渡ることだった・・・。
川端優人は私が尊敬する作家の一人である。ファンとか大好きとは違い、「尊敬」なのだ。この『はじまりの歌・・』は、「歌」をテーマに、ここまで気宇壮大な物語を紡ぎだせたのか、と感嘆するほど「歌」が主人公の冒険譚なのだ。
川端裕人は、今までにも「ロケット」「恐竜」「タバコ」をテーマにした、やはり壮大なアドベンチャー小説を上梓しており、その構想力には毎回脱帽していた。そしてこの『はじまりの歌・・』は、「歌」を信仰しているアボリジニを主役に置くことで、歌の持つ呪術性を掘り下げ、哲学的考察を進めているのだ。
それにしても川端裕人がここまで歌・音楽に関して深い知識と洞察力を持っていることに驚嘆した。自らをミュージシャンと称しているようだが、作家だからこそ、音楽が人に与える影響とか効果を客観的にとらえることができたのではないのだろうか。日本人とオーストラリアとの歴史的関係や、原爆を巡る逸話などの豊富なエピソードを交え、先の読めないめまぐるしい展開のアドベンチャー物語であった。