またまた恩田陸なのだ。多産の恩田陸だが、今回は山本周五郎賞を受賞した、戯曲がテーマの新境地ミステリィである。
ホテルの中庭で開催された新作舞台「告白」の発表パーティの最中に、当事者の脚本家が毒殺された。そこに居合わせた主演予定の女優三名に、殺人の嫌疑がかけられる。警察はその女優達に、脚本家の変死をめぐる一人芝居「告白」を演じさせるのだが・・・。
という内容の戯曲「中庭の出来事」を、発表しようとしている劇作家は、入り組んだストーリーを組み立てようと、女優達に「中庭の出来事」を演じさせようとしたが・・・。
という、劇中劇のお話。虚と実、内と外が複雑に入り組んだ構成は、読者を幻惑させる。どの部分が(小説の中の)劇で、どの部分が(小説の中での)現実なのか?登場する俳優達は、台詞を話しているのか、それとも真実を語っているのか?いったい殺人は起きたのか、起きなかったのか?などなど、読んでいると様々な疑問符が沸き上がるお話なのだ。
作者自身が小説中に登場し、その作品自体を書いているお話、いわゆる「メタ小説」ではないのだが、それに非常に近い構造になっている。というか、どうしても違和感の残るメタ小説より、この劇中劇の方がはるかに小説としては納得感があり面白い。
この小説のもう一つの特徴のとして、演劇に対する深い洞察がある。登場人物である俳優というか女優達の台詞がいいのだ。シェイクスピアの「真夏の夜の夢」などの古典劇の台詞を効果的に使い、演技の虚実を問いながら、ミステリィの中の犯行動機は後付けでどうにでもなる、と言い切る。そして、女優達に犯人を演じさせ、それぞれ異なる犯行方法や犯行動機を語らせてしまうのだ。
「自分を演じていない人間はこの世にいないと思う。自分に与えられた役割を意識して、家の中でも、会社でも、社会でも、望まれた姿を演じている」と、女優たちに語らせる、演劇感覚。
それにしても恩田陸は懐の深い作家だ。これまでに様々なバリエーションの作品を上梓してきたが、まだこんなパターンもあったのか、と唸らせるほどの出来だ。この作品は、ミステリィとしての面白さももちろんあるのだが、それ以上に恩田陸の「演劇論」を拝聴できる、とっても貴重な作品なのである。