なるほど、確かに名作だった。浅田次郎の小説は、『プリズンホテル・シリーズ』『天切り松 闇がたり・シリーズ』‥、かなり読んできたのだが、この最も有名な直木賞受賞作だけは、なかなか手が出なかった。1997年に出版されたこの短編集は、表題作が映画化もされたこともあり、ベストセラーとなって、浅田次郎の名を世に知らしめたのだ。
子供が死んでも妻が死んでも、常に最北の駅に立ち続ける駅長の最後の一日を描く『鉄道員』
裏ビデオ屋の雇われ店長が、一度も会ったことがない偽装結婚相手の中国人女性から、死ぬ間際に手紙をもらう『ラブレター』
プロジェクト失敗の責任を取らされ南米に異動となった商社マンが、日本を旅立つ直前に、自分を捨てた亡父を回想する『角筈にて』
理不尽な理由で離婚させられる天涯孤独な女性を、亡くなった祖父が助けに来る『うらぼんえ』
この他に、『悪魔』、『伽藍』、『ろくでなしのサンタ』、『オリヲン座からの招待状』の全8編。
初版本のキャッチコピーが、「あなたに起こる やさしい奇蹟。」である。いわゆる、涙なしでは読めないお話ばかりなのだ。安直な人情物などではない、真摯に生きてきた人たちの人生の一部を、見事に切り取った物語ばかりなのだ。しみじみと読ませ、ドラマチックに読ませ、最後に感涙させる、その筆の冴えは素晴らしい。
それにしても、一人の作家の作品がこれほどバラエティに富んだ主人公なのも凄い。年齢性別はバラバラで、その歩んできた人生も様々なのだが、どれもこれも奥深い過去を背負い、その生き様も異なっている。やはり浅田次郎の人生経験の成せる技なのだろう。若い人気作家の作品が、どれもこれも似たような話になるのは仕方がないのだが、やはりある程度の人生経験を積んでから作家になるべきなのだろう。想像力だけで書いた小説は、どうしても「浅い」お話に感じてしまう。まあ浅田も色々な人々にインタビューをしているようだが、実際の経験を元にしたお話のリアルさにかなうはずがないのだ。直木賞の受賞は、当然の結果なのだった。